雪虫
休み時間。
窓際の後ろから二番目の席がの机であった。午後からは日当たりも良く、席替えのときは誰もがなりたい席でもあり、ちょっとした時間のお昼寝には丁度良かった。
「外は寒いのかな?」
窓辺に立ち、外を見つめながらポツリと呟いているのは、日当たり良好な席の持ち主・である。が立っているということは、誰かが席に座っているからで、その席を占領しているのは?
「なんや、また岳人に取られたんか?」
「忍足君。そうでもないよ」
「ちゃんは甘やかし過ぎやで」
「気を付けます」
「ほな、行くわ」
の机に突っ伏して寝ている岳人を見て、忍足がに声を掛けた。ペアを組んでいるだけあり、岳人のことはわかっているからの苦労を察してのことだが、去り際に頭を撫でていくなど、に対しての行動は怪しい。それを単なる優しさとしか気づいてないに対し、忍足が去ったのを見計らって岳人がムクリと頭を上げた。
「気を付けるのはお前だ」
「えっ?起きたの?」
「鼻は利くからな・・・たくっ、侑士のやつ」
眠そうな目をシバシバさせながら岳人は口を尖らせ、聞き取れるかどうかぐらいの声で言った。いつもは起こすまで起きないのに、岳人から起きたことには少し驚いている。しかし、普通なら起こされたときに不機嫌になるものだが、自分から起きて不機嫌なのにもは首を傾げた。その顔がゆっくりある人物に向けられたが、授業が始まるまでに岳人が起きてくれて仕事が減ったと、安心したは再度窓から外を見たので気付かなかった。
「あっ!雪虫」
「はぁ?なんだよ」
「雪虫が・・・って、近いよ」
「わざとだからな」
外の景色を眺めていたはふと、白いものが浮遊しているのに気付いた。それがなにかと結び付くまで間はあったが、晴れた空に選択肢は狭められる。窓の外で見つけたものは雪虫で、一瞬雪と見間違うが雪虫が飛ぶと本物の雪も近いと言われていた。(←たぶん。)の声に、岳人は席を立つと自分よりも少し小さなの肩に顎を置き、同じように窓の外を見る。教室でのくっ付きに焦ったのはで、離れようにも岳人の両腕に逃げ道を塞がれ万事休す。瞳の端に映る悪戯っ子のような笑みに、なにも言えなくなるであった。
数日後の朝。
「雪降ったな。寒いっ!」
「積もるような降りじゃないけどね」
「・・・なんだよ」
通学はいつも一緒。並んで歩く二人に止むことなく雪は降る。コートのポケットに手を突っ込んで、寒さから早足になる岳人のコートの肘の部分をちょんちょんとは引っ張った。丸まった背を反らし、止まることを嫌っている岳人の前にはそっと手を出した。
「手、冷たいの」
「たくっ、貸せよ」
紅くなった頬をさらに紅くして、は言いにくそうに言葉を紡いだ。はっきりと口に出すのは恥ずかしいし、断られそうなので路線を変えての行動に出た。寒さにイライラしながらも、素早く済ませたいとの手を掴むと元のポケットに戻す。
「冷てぇ〜!手袋は?」
「してるよ」
「左だけかよ。もっと早く言えよな」
「言ったらしてくれた?」
「なんでもしてやるぜ。ちゃんと言えばな」
「・・・なんか、含みのある言い方だよね」
「一方通行じゃ、不公平だろ」 |
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