調理実習・2



放課後。校門前でブン太を待っていたは、練習が長引いているのかなかなか来ないので待ちくたびれていた。それに時計も6時を過ぎて、待ってるだけとはいえお腹も空いてくる。腹の虫に耐えるため、お腹に手を当てるも無駄な足掻きか、救いは人がまばらであることぐらいで意思に反して騒ぎ出す。



「まだかなぁ・・・お腹空いた」



塀に凭れた身体は重く、ただ空腹を我慢することしかできない。いつ来るとも分からぬ相手を待つのって、状況によりけりだと実感した。腹の足しになる物がないかと、ポケットを探るがこんなときに限ってなにも出てこず、ブン太にガムの一枚でも貰っておけばよかったと悔む。



「っ!これがあった」



項垂れ見下ろした先に、紙袋の存在に気付いた。中身は調理実習で作ったカップケーキが5個入っている。当然、ブン太に渡す物だが、今日は上手く時間が取れずに渡せぬまま、死守した戦利品はの手の中にあった。



「(ゴクリ)一つなら、食べても・・・」



袋から透明なシートで1つずつ包まれているカープケーキのうち、1個を取り出した。言うより先に飾りのリボンと解けば、待ちきれずに口へと頬張る。ココア味の生地はしっとりと、混ぜたホワイトチョコチップがちょうどいい具合に溶け、我ながら上出来と満足気に頷く。



「美味しい・・・天才的って、移っちゃった」



口に手を当て苦笑いするも、カップケーキは既にない。美味しい出来に浸りつつ、その手は紙袋に伸びていた。






!待たせたろぃ?わりぃ」



ようやく、待ちに待った声がの耳に届いた。振り返ると、顔の前で手を合わせたブン太が謝る。



「ブン太先輩。お疲れ様です」
「わりぃな。真田がさ、あいつの説教は長いんだ」
「大丈夫ですよ。これ、どうぞ」
「おぉ!待ってたぜ!」



部活後のの笑顔は、ブン太にとってなによりの癒しだった。肩から落ちたテニスバッグを直しながら、ブン太は口を尖らせ真田を愚痴を漏らす。先輩ながら可愛いと思いつつ、は何事もなかったように紙袋をブン太に差し出した。嬉しそうに紙袋を受け取り、ブン太は中を覗く。



「3つ・・・だけ?」
「えっ、はい」
「袋、でかくねぇ?」
「そんなことは」
「おかしいだろぃ?」
「別に」
「な〜んか、隠してねぇ?」
「隠してなんか」



首を傾げ、この大きさの紙袋ならあと何個か入っててもおかしくないと、ブン太の甘い物アンテナが働いた。誤魔化すような、はぐらかすような態度のに、ブン太の疑りの目が刺さる。逃れようとしているだが、逃れきれぬ核心をブン太は掴んでいた。



「嘘つけ」
「え、わっ!」

ペロン!



不意に近付いたブン太は意地悪な笑みを携え、無防備に動揺していたの口の端を舐めた。たじろぐに、舌舐めずりでブン太は見せつけるようになにかを味わう。



「ブン太先輩!」
「クリーム付いてたぜぃ」
「えっ・・・・・始めから」



いきなりのことで、紅くなりながらもは怒るが、ブン太の言葉に驚き、気付いた。ブン太に踊らされていたのだと、怒るより恥ずかしいであった。



「気付いてたけど、美味そうだったからな。ほんとはすぐに舐めたかったけど、クリーム付けたは貴重だろぃ」
「ぅ・・・・・」
「怒るなって、お互い様だろぃ」



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