わがまま王〜麻倉家・寝起き編〜



冬の朝は冷える。そのせいで、いつもの起きる時間よりも早くに目が覚めたりする。布団を被っているのに、どこからか寒さが入り込み眠気を邪魔した。



「…寒い!今日は冷えるな」



布団の中で体を猫のように丸め、普段なら絶対にが起こしに来るまで起きないハオが、寒さのせいで起きていた。だからといって、布団から出る気はなく、が来るまでこのままでと言いたいが、眠気は完全に消え、寒さだけが残った。



「何時だ。……」



目が覚めたのはいいが、今の時間がわからない。がまだ来ていないということは、7時ではないことだけはわかるが、だとしたら、寝てたい気持ちは強い。意味をなさない枕元の目覚しに手を伸ばしかけ、手首までしか出さずに引っ込めた。



「寒い…。凍える」



その手を口の前で温めるように息を掛け、寒さに体を震わした。この寒さは異常だと、ギュッと目を瞑り、眠ることに専念した。



「寝るんだ。寒くない。寝るんだ」



ブツブツと呪文のように繰り返し、自分に言い聞かせるようにやっても眠れない。もう布団の中で、温かく感じるところはなかった。冷たくなる中で、廊下の微かな足音を聞いた。



「!!」



スゥーと開いた襖に、それがであるとわかった。毎朝のこと、それ以外でも、が来たことだけは間違いなく分かる。そっと近づく気配に、布団の中で息を潜め、寝たふりをする。起こしに来たと思っていたら、足元が捲られ、冷たい空気と共に温かな物が入れられた。



?」
「あ!起こしてしまいましたか?すみません」



体を起こすことは出来ないが、顔だけ少し覗かせた。そこにいたは寝間着姿の浴衣だけだった。



!」



思わず飛び起きた。でも、寒くて舞い戻った。



「ハオさま!寒いですから」
だって寒いだろ。そんなカッコで」



ハオの行動に驚きながらも、乱れた布団を掛け直した。寝間着姿で傍に来られると、今更ではあるが照れる。いつもならアンナに叱られてでもくっ付いていたいのに、いきなりのこの状況は理性に悪い。視線をどこにやっていいのか分らず、ここは我慢と部屋の角に向け、足を伸ばした。



「温かい。これ」
「湯たんぽです。アンナ様に言われて葉様のと2個用意したんですげど…」



足先に天国を見つけ、ぬくぬくと広がる熱に幸せを感じた。これならもう一眠りできるかもと思いつつ、連なる言葉にハオは引っ掛かり、言い辛そうに口篭ったと目が合い。今度はが遠くに外した。大体の想像は付く。



「一緒に寝てたので、…その、1つ余ってしまって、それで…ハ、オ様に」



ハオのためではないということで、余ったから、最初から頭数には入ってなかった。アンナ絡みじゃよくあることだ。気にしない。気にしないが



「僕の分はなかったってことなんだ」
「はい。でも、2個しかなくて・・」
「言い訳だよね。それ、傷つくな」
「・・・・・」



寒いのを我慢して体を起こす。肩を滑り落ちる髪が、ハオの心情を哀愁として現した。膝を立て、冷たい布団の上で腕を組み、顔を埋める。俯き返す言葉をなくしたは、申し訳ありませんと頭を下げた。



「ねぇ、僕のお願い聞いてくれる」
「…」
「簡単なことさ。それで全部チャラ、ね」



顔に掛かった髪はそのままで、を見る。愁いを帯びた瞳に、首を縦に動かすことしか出来なくて、その裏にあるモノに気付かない。静かに伸びた手が、の手をそっと掴む。



「ハオ様…?」
・・・・・一緒に寝よ!」



不思議に顔を上げたの目に、笑顔が満ち満ちて、さっきとはガラリと違うハオが映り、その手を引っ張った。急なことに為すが侭、思考がそれを理解するまで、暫らく掛かった。全てはハオの手の中で



「!ね、寝るって、ダダダダダメです!」
「もう遅いよ。の負け」
「ハ、ハオ様!キャッ!」



慌てて退こうとしても、もうハオの腕の中。ピッタリと間近で、ハオが悪戯っ子のように笑う。パニック寸前なを強く抱くと、布団の中へと体を沈めた。



「フフッ。浴衣は冷たいのに、はすごく熱いよ」
「っ…」
「また、熱くなったんじゃない?…温かい。このまま、眠れそうだよ」



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