マシュマロ
快晴の空の下。潮風を帆いっぱいに受け、大海原を進むゴーイングメリー号。気持ちのいい午後に、皆ウトウトと油断しきっていた中で、事件は起きた。
「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁーい!」
突然上がった悲痛な叫びに、乗組員達は声の主の元へ、急ぎ向う。その声は、今まで聞いたことのない声だったが、微かに聞き覚えがあり、誰の者か予想は付いた。だからこそ、少しでも早く走る。
『(ちゃん)!』
皆が、同時とも言えるタイミングで、の元へ集まった。声が揃い、視線の先に見たものは?
「いじゃい・・・」
涙で潤んだ瞳が大きく揺れ、は喋りずらそうに一言、震える声が耳に痛い。目立った外傷は見当らず、原因として、手で覆っている左頬に何かあると悟った。そして、皆が集まるより前に来てたのか、の側にルフィの姿が
「!どうしたの?」
「・・・・・」
「見せて!っ!」
駆け寄ったナミは心配そうにを気遣うが、黙られてはなにもわからない。強引と知りつつ、隠すように覆っていた両手を掴み外した。そこでナミが目にしたものは
「ル、フィ〜!」
「ぉ、お!」
肩を震わせ、低い声に怒りが溶け込んだ。そのオーラを向けられたルフィは、知らない振りをするかのように遠くを見つめ、頬を人差し指で軽く掻いた。一先ず、ナミは怒りを堪え、の両肩に手を置き
「チョッパー!急いで消毒して!」
「えっ!お、おぅ!」
もしものために持ってきていた救急箱を抱え、チョッパーはナミに言われるままの元へ
「ナミさん!なにが、ぁあ!」
もどかしくなったサンジが、ナミの後ろから覗いた。を見て、その衝撃に口を大きく開けたまま固まる。
「歯形だ!歯形が付いてる」
消毒液を手に、チョッパーは珍しいものを見て、冷静に現状を述べる。雪白の頬に、深々と真っ赤な歯形がくっきりと刻まれていた。この動かぬ証拠から、例え薄っすらであっても、こんなことをする人物は1人しかいない。
「ルフィ!あんたになにしようとしたの!」
「そうだ!ちゃんの頬に歯形なんか付けやがって、どういうつもりだ!」
「な、なんだぁー・・・その」
の消毒に一安心し、怒りのスイッチを入れたナミと、その声で戻ってきたサンジの二人に、ルフィは問い詰められる。怒り満ち満ちの二人に、タジタジのルフィはしどろもどろに話し出した。
「が、寝ててさ。・・・・・見てたら、腹へって、顔見てたら頬っぺたプニプニで柔らかくて、マシュマロみたいだったから、つい」
ニシシッと、目の前にいる二人の睨みに、控えめな笑みを見せる。当然、理由はどうあれ、ルフィに釈明の余地はなかった。
「ついで済ますな!ついでしていいわけないだろ!」
「なに考えてんのよ!顔に傷つけて、消えるまで一週間はかかるわ!」
「そう、がみがみ言うなよ」
「「ルフィ〜!」」
怒りの収まらない二人に詰め寄られ、ルフィは小さく肩を竦ませた。ルフィのことは二人に任せておけば大丈夫だろうと、チョッパーがを連れ中へ行こうとしたので、傍観者だったゾロ達もそれに付き合う。
「いい!当分の間、に近付けさせないから、今度こんな事したら海に沈めるわよ」
「そうだ!で、今日は飯抜き!」
「ええ〜!そりゃないぜ〜」
「「喧しい!」」
遠ざかる気配に、再度、念の押すよう二人は声を大にして言う。反省したのか微妙なところだが、の元に行きたい二人は区切りを付けた。ルフィは口を尖らせ、去って行く皆を見送りながら
「見てると美味そうなんだから、仕方ねぇーよな」
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