封じ手



張り詰めた空気の中で、落ち葉が数枚、風に舞った。それを合図に、木々の茂みに隠れていた2つの影が飛び出し、空中で交差した。刃物のぶつかる音を残し、影はまた、茂みへと消える。鳥の囀りで相手の位置を予測し、気配を絶ち、後ろに回り込み、間合いを縮めた。



「っ!」
「甘いんだよ」



クイナを構え、飛び出したときまでは在った体が、振り翳したときには煙と共に、丸太に代わっていた。それを払い除けると、大きく飛び上がった影を追うため、茂みから平地に跳んだ。



「サスケェェェ!っ!」
「その程度か」



着地点には、変り身の術でしてやったりのサスケが、余裕からか片手はポケット中で、構えの態勢を取るでもなく立っていた。嘗められていることに、容赦なくクイナを振り下ろすは、歳は同じでも、下忍になったのは2年先輩な筈のなのだが、あっさりと避けられる。



「このぉぉぉぉぉ!」



後ろに飛び退いたサスケを、着地を弾みに再度、クイナを突き立て飛び込む。が、それも予測してたのか交わされ、クルリとの脇に回った。



「っ、きゃぁ!」



目では追えていても、体が付いていけず、サスケは笑みを端に残し、ヒョイッと足を掛けられゲームセット。勢いのまま、野球選手も驚く、豪快なスライディングでずっこけた。ズズズッ…と、全身で滑り止まったに、溜め息1つで歩み寄る。



「オレの勝ちだ。お前はいつもワンパターンなんだよ」
「もう一回!今度は勝つ!」



呆れながらしゃがむサスケは核心を突いており、の行動はレパートリーがない。毎回どれも似かよった動きで、サスケの頭にはその一つ一つが染み付いているため、予測も予想も想定の範囲なのだった。そうとも知らずに、はムクッと起き上がると、目の前のサスケに闘志は消えていない。



「何度やっても、結果は同じだ」
「…わからないでしょ」
「くっ!まだやるなんて」



懲りないの相手をしている自分も自分と、お互い様かと物好きな、否、好きだからが正しいのかもしれないと、自分の甘さを認めるしかなかった。そこに出来た一瞬の隙を、勝利への執念から見逃さなかったは、落ちたままのクイナの柄の穴を人差し指で掬うと、クイナをクルリと廻し握り直した。その切っ先は、サスケの鼻先を掠めそうになったが、態勢を崩しながら交わし、事なきを得る。



「油断大敵!」
「お前は!」



組み手での進歩はないのだが、こういったことには目敏く、感心すら覚えるが、その後が続かない。後ろ手で体を支えたサスケは、突いた手をバネに前へ起こせば、大振りから振り戻そうとしたの腕を掴み、押し倒した。



「また、負け…た」
「だから、ワンパターンなんだよ」



形勢逆転。さっきとは逆で、背中が地面に着いている。目の前には、覆うようにサスケの顔があり、の手からクイナを放し、吐いた溜め息は、どこか疲れていた。



。もう少し考えて行動しろ。いつもいつも、サルの一つ覚えじゃ有るまいし、同じことし『サスケ…』かしてなっんぅ・・…」



何度同じことを言っただろうか、聞いただろうか、最後はいつも、サスケの有難いお言葉が待っていた。次こそは、次こそはと思っていても、確立された動きは変えられず、サスケに負けてばかり。で、耳が痛い。今日も長くなるのかと、はサスケを呼び目を合わせると、腕を首に伸ばした。



「どういうつもりだ」
「・・お説教・・は聞、きたく…ない」



言葉を遮ったのは、の唇。長い口付けに、冷静を装うサスケの内心は落ち着かず。頬を紅くし、恥ずかしそうに視線を外したの可愛い言い訳に、負けたのは自分かと、口の端に乗せた笑みを隠した。



「また、負けが増えたな」
「えっ、これは違う」
「同じだろ。勝つまで付き合ってやるけど」
「…サスケのバカ!」



見下ろすように距離を取り、気付かれていない動揺を意地悪で包む。案の定、逆転の逆転で優位に立ったサスケだったが、誤算が生じ、もう一回りしてしまった。しかし、時すでに遅く。サスケの圧勝で勝負あり。



「ほぅ〜。そうか。オレはまだ勝ちたいから、付き合ってもらおうか」
「サ、サスケ!目が本気なんですけど」
「オレは本気だぜ。さぁ、どうする」
「逃げる!」
「だから、何度も言わせるな」
「きゃぁ!」
「先に仕掛けてきたのは、だろ」


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