忍ぶ恋



忍者学校の時、幼いながらも女の子同士、恋話で盛り上がっることがあった。やはり女の子は忍よりも恋がメインでる。



「やっぱカッコいいー」
「だよねー。いいよねー」
ちゃんは好きな子いるの?」
「ぇ・・」
「まだちっちゃいから無理よ」
「あ、そうだね」
「それでさぁー」



恋話になると、いつも輪に入れてもらえない。それはがみんなよりも年下だからだ。小さいながら才能に恵まれ、同じ歳の子達よりも早くに忍者学校に入り、大きな子達と同じように学んでいても、この話題には入れてもらえなかった。



「わたしにだって、好きな男の子はいるんだから・・・大好きな・・・」









「あぁ〜、サクラさん!サ・ク・ラ・さ〜ん」
「・・・・・・」



何度聞いただろうか、聞かされた。目をハートにし、森の中とはいえ、標高はないに等しい位置から山彦なんて返らないのに叫び続ける男、ロック・リー。試験開場で会ったサクラに一目惚れしたようで、朝からずっとこの調子。恋焦がれ、思い出しては溜め息を吐き、抑えきれない想いを叫んでいた。それを側で聞かされていたは、耳にタコよりもウミが出来るほどだった。



「あぁ〜、サクラさん。君は僕の太陽だ!月だ!星だ!惑星だ!」
「はぁ・・・」



リーの熱い叫びに、正直付き合ってられるほど、広い心と余裕は持ち合わせてはいなかった。しかし、口には出せないし、かと言って・・・・・耐えがたい苦痛の中、は溜め息以外何も出ない。



「あぁ〜、サクラさ〜ん!サクラさ〜ん!」



の限界は通り越していたが、リーはまだまだエンジン全開に思え、そろそろ切り替えるかと、話の隙を伺う。なにかに夢中になるリーは嫌いじゃない。でも、どうして飛び越えていくんだろう。



「はいはい、分った。で、サクラちゃんはなんだって」
「っ!・・・・・・・・・・・・・」



さっきまでのずば抜けて高いテンションから一転、膝を抱え小さく丸々と、半径1m内に影を落とし、地面の草をブチブチと抜きながらしょんぼりしてしまった。さっきまでとは別人になってしまったリーに、地雷踏だったかと、冷静に分析出来てしまう辺り、付き合いの長さを感じさせる。そして、頭に浮んだことをそのまま口に出してみた。



「その下睫毛がイヤ。その太い眉毛がイヤ。全部が濃過ぎるのよ」
・・・・・言うならズバッといって下さい」



棒読みで淡々と代弁された言葉に、サクラに言われたよりも倍傷付いたのか、眉をピクピク震わせて項垂れた。傷を広げてしまったと、顔を掻いてあさっての方を見る。どっちにしても、手が離せない。



「リー。落ち込んでる暇ないでしょ」



目を閉じ、一呼吸置いてから、リーの横にしゃがんだ。このポジションは、ずっと変わらないのかもしれない。ふと、昔といっても近いが、幼馴染みであり、忍びとしては一足早く中忍になったのが先輩で、なにかあれば励ましてたことを思い出した。リーの背中をポンポンと叩き、笑顔を見せる。



「今は中忍試験中。それで大丈夫なの」
「そうでした!明後日は2次試験・・・・燃えてきました!」
「それでこそ、リー・・・・・」



の言葉に頷くと、立ち上がりメラメラと燃え出した。高く拳を突き上げ、俄然やる気を出したリーに、は嬉しくも複雑な気持ちで見つめる。きっと2日したらまた、戻るかもしれない。どうして、今、恋をするの?



「(こんなに近くで、リーのこと思ってるのに、気付かないっておかしくなぁい・・・・・)わかってんの!」
「うぐっ、ぐるじぃー」



リーの変わり栄えの速さに、の堪っていたなにかが切れた。燃えているところ水を差すようで悪いが、リーの後ろからスリーパーホールドを決めた。ロープロープともがきながら腕を叩くリーに、少しは反省したかと弛める。



「頑張ってね。リー」
「わかってます」
「なら、いいか」



ずっと前から大好きな男の子がいた。今も大好きだけど、誰も知らない。ちっちゃい時、すれ違って大きくなったわたしは、1人だけ違う世界にいて、1人だけ大人になって、本当は子供のままなのに、胸に秘めた思いは一人前に大人だった。



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