やきもち
本日は、の非番日である。初めてのお給料で買ったお気に入りのソファーに座り、まん丸クッションを膝に抱いて、購入したはいいがなかなか読む機会のない本を読んでいた。男社会の軍に居り、忙しい日々の中での唯一の安らぎを有意義に過ごそうとしていた矢先、の気分の一転させる人物が現れる。
「!会いたかったよ〜!」
読書に熱中していたの背に、甘えたお邪魔虫の声が掛かった。ここは三階で、ドアには鍵が付いているし、声さえ聞けば相手が誰だか分かる。奇想天外な出現をするのは、一人しかいないのだ。
「〜!ー?」
何度も呼び掛けられ、気付いているのには返事をしなかった。少しの距離で止まり、窺うようにキョロキョロした後、主人を待ち兼ねた子犬のようにテケテケと走り寄ると遠慮なく、ソファーの背中越しに抱き付いた。久しぶりに感じるの感触と匂いに、うっとりと瞼を閉じるのは、を愛して止まぬ、エンヴィーだった。
「・・・・・・・・・重い」
「もしかして、アレ?」
「違う。離れて、エンヴィー」
沈黙の中、は口を開いた。しかし、いつものとは違って淡々と、感情が掴めず、冷たさが漂う。夢心地から覚めたエンヴィーは、時折動く瞼以外、全く動く気配のない横顔を見て、感じたままを口にしたが違ったようで訂正、拒絶された。
「じゃ、怒ってる?」
「・・別に」
「目が、こんなんなってるけど」
肩に腕を廻したまま、の顔を覗き込んだエンヴィーは、その表情を読み取り、首を傾げながら聞いてみた。本から目は放さなかったが、微かな躊躇いに気付いたエンヴィーは、核心を得る。廻してた手を放し、目尻に持っていけば大げさに、両目をグッと吊り上げた。思わず、吹き出してしまいそうな顔をしているエンヴィーに、募った怒りが込み上げたは突き放す。
「いい加減にして、邪魔しないで!」
「ー!」
本から、やっと顔を上げたは、腕を伸ばすと力一杯、エンヴィーを肩を押しやった。伏せがちな瞳にエンヴィーが映ることはない。ここまでの拒絶は初めてのことで、流石のエンヴィーも退散すると思いきや、次なる行動に出た。見えないストレスが、エンヴィーの中にも溜まっている。
「えぃ!」
「ちょ、エンヴィー!」
バコッ・・・バサァ・・・ッ
視界の端から伸びた手が、の本を掴むと奪い取り、対処する前に後ろへ投げ捨てられた。壁に当たり、無惨にも広がり落ちる。エンヴィーの態度は子供じみていたが、振り返り、本を追おうとしたを行かせようとはしなかった。立ち上がろうとしたの肩に手を置き、ゆっくりと座らせれば、驚いてる瞳にやっと、映ることが出来た。
「なにが気に入らないわけ?このままじゃ・・・を壊すよ」
「っ・・・・・言わなきゃ、わからないの」
見つめ合った距離は縮まり、静かにエンヴィーは話す。抑えきれなくなりそうな自分を堪え、もう片方の手はの頬を擦ったが、肩に置いた手にはくい込むほど力が入っていた。逸らせない瞳が一瞬、痛みで崩れた後、そこには哀しみが見え隠れしている。気付きそうもないエンヴィーに、唇を噛み締めた。
「わかんない!オレはずーっと、に会えなくて寂しかったんだからな!」
「寂しい・・・」
「そう、も寂しかっただろ。オレも同じ」
パァーン!
乾いた音が響き、エンヴィーの頬は薄っすら紅くなる。の瞳からは涙が零れ落ち、エンヴィーの言葉を認めたくないと首を横に振る。ふざけていて叩かれることはあっても、本気で叩かれたことはなかった。小さくて柔らかいの手なのに、痛い。
「」
「ふざけないで!なにが寂しいよ。嘘ばっかり、好きも愛してるも私だけじゃないじゃない!」
呆然と立ち尽くすエンヴィーに、あげてしまった手を押さえ、は我慢していた気持ちを吐き出した。与えられた言葉を間に受け、天秤に掛けられていたことが悔しくて堪らない。大きく育ってしまった想いを枯らすことは、そう簡単には出来ないのだ。
「待って・・・なにいって」
「今更、嫌いになれるわけないのに、あんな女の人と・・・・・」
「女?、落ち着けよ」
涙でクシャクシャの顔を手で覆い、気持ちと同じで止められない口は話を続ける。しかし、話の欠片も分からないエンヴィーは戸惑いつつも、の発言に喜びを感じていた。
「触らないで!・・・・・構ってほしければ、ロングヘアで、スタイル抜群の綺麗なお姉さんのところに行けばいいじゃない!わたしなんかより、ずっと良くしてくれるでしょ」
「なんだよ。ロングだの、お姉さんって」
泣かれてから、やり場のなくなった手を落ち着かせるために伸ばしたが、叩かれ、全く見当の付かない話しへ戻される。泣きじゃくるも可愛いが、まともに話が出来ない状況は、ここへ来たときから変わっていない。出口が見えず、エンヴィーにも疲れが見え出した。
「まだ、とぼける気!黒のタイトドレスを着た、お色気ムンムンの女性と一緒にいたでしょ!」
「あぁ・・・・・・・・・・ああ!おばさんのこと」
涙を払うと、話の今だ見えてないエンヴィーに詰め寄り、確証たる特徴を突き付けた。見て、感じたままを述べたが、エンヴィーの顔はピクリともせず、少しして思い当たる人物が浮んだ。
「おばさんって、誤魔化すつもり!」
一瞬、呆気に取られただが、思い出せる範囲でもおばさんとは思えないし、エンヴィーの言葉を信じることなんて出来ない。このまま流されるわけにはいかないと、はくい付いた。
「もしかして、あんなおばさんにやきもち妬いてたわけ?」
の誤解している相手が分かり、もっと早く気付くべきだったが、エンヴィーの中で、ラストは女性の分類に入ってなかった。たまには役立つことも在るのかと、内心、少しだけラストに感謝し、遠回りはしたが、本来の目的もすんなり達成出来そうで、エンヴィーはにんまりと笑う。
「な、によ」
「へぇ〜。そうなんだぁ〜。そんなにオレのこと好き?愛してるんだ」
「っ!は、話を逸らさないでよ」
「ククッ。たまにはいいね。痛い思いも、の本音が聞けて・・・でも」
「ちょ、っん!」
ソファーを越えてきたエンヴィーに、警戒するも強くは出れないであった。日頃聞けない本音を聞いて、も同じ気持ちなんだと再確認し、エンヴィーは首に顔を埋め、ソファーに押し倒した。
「誤解だよ。あの女は仕事上の付き合いみたいなもん。比べること事態、間違ってる」
「・・・ほん、とに」
「ホント。まだ疑うなら、オレがどれだけを愛してるか、教えてあげる」
「んん!エンヴィー・・」
「ココロとカラダ。どっちも、オレでいっぱいにしてあげる」 |
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