気まぐれな猫
軍での仕事を終え、家に着いたのは日付けの変わる前だった。自分のミスでこうなってしまったのなら諦めも付くが、不出来な上司の尻拭いをさせられるのは勘弁してもらいたい。鞄も靴も放り投げ、取りあえず水だけでも飲もうと台所の蛇口を捻り、コップ1杯の水を飲み干した。食事を摂っている暇もなく、今更作る気にもなれず、疲れた体を休めたくて寝室へと向かう。明日も当然のことながら通常勤務に、朝一での書類提出が待っているため、最終チャックを行わなければならなかった。なぜ、上司の仕事を自分がと、疲れきった体を重力に任せるまま、ベッドに倒れ込んだ。
「っ!」
「・・・・・・?」
広くはないベッドだが、1人で寝るには丁度いい広さがある筈なのに狭い。手を横に広げようとしても、右手はベッドからはみ出し、左手は山に当る。違和感に使いきった頭を働かせるもダメで、それよりも早く山が動いた。
「急に倒れて来ないでよ。ビックリしたじゃんか!」
「・・・・・エンヴィー?」
「ってば帰るの遅すぎ!オレ待ちくたびれちゃった」
上半身を起こし、シーツを手繰り寄せる音と拗ねたような口調が耳に届き、それが誰なのかが分かった。灯りがないためお互い顔は見えないが、位置的に察しが付いたエンヴィーは、シーツから足を抜き取ると、の方へ四つん這いに移動する。寝っ転がったままだと、シーツも邪魔だし、向きを変えるにしてもと位置がずれていたのだ。
「・・また勝手に入ったんだ」
「だってに会わないと、寂しいんだもん」
「・・・・・じゃ、もう・・帰って」
「え〜!どれだけ待ったと思ってんのさ!冷たすぎる」
自分を抱きしめたり、泣きまねをしたりと、灯りが点いていれば、さぞ見物な光景も見れず、ベッドの震動が疎ましく思えた。返事を返すだけで精一杯なをよそに、エンヴィーは次なる行動へと移る。
「ねぇ、。しようよ」
大きくベッドが軋んだと思ったら、両手に挟まれ、覆い被さるようにうつ伏せで寝ているの耳元で囁く。長い髪が頬を掠め、耳に掛かる吐息がくすぐったいはずなのに、反応を示さない。
「聞いてる?返事がないってことは肯定ってとっていいのかな?」
「・・・・・」
「じゃあ、いただきますしちゃうよ。いいの?」
普段なら即拒まれ、怒られるのに、なんにもないことにエンヴィーのほうが遠慮してしまう。最後確認をと、顔を覗き込む仕草がぎこちなかった。
「?」
「・・静かにして・・寝たいから・・・」
粒かれた言葉に、不安がってたエンヴィーの顔はパッと晴れた。これで静かになると油断したその時、
「わっ、な!」
体がひっくり返され、気付けばエンヴィーと向き合い抱き枕状態だった。眠気も一瞬覚めて、パチクリと見開いた目には、ぼんやりと笑顔が映る。優しく巻かれた腕が温かい。
「エンヴィー?」
「じゃあ、くっ付いて一緒に寝る!」
「・・・おやすみ、エンヴィー」
「おやすみ。」
おでこがコツンとくっ付き、静かに瞳を閉じた。2つの吐息が1つになって、穏やかな眠りへと落ちていく。
そして
「・・・今何時?・・・っ!遅刻だー!」
「まだ眠いよ。寝てよ」
「ちょっと!エンヴィー!離してぇぇぇー!」
騒がしい目覚めは、眠りの戒めに捕まったのだった。
当然、が大目玉を喰らったのは言うまでもない。
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