やきもち



崑崙山 から西岐に来て数日、は自分の居場所について悩んでいた。太公望が封神計画で地上に下りるまではいつも隣に居られたのに、元始天尊を説得し続け来てみれば、霊獣と弟子がセットで引っ付いている。離れていた時間は長くはない。そう思っていたのに、2人に、違う。皆に取られた気がする。



「上に立つ人だから、わかってるつもりなのに・・・・・・はぁー」



口を開けば、出てくるのは不満と溜め息ばかり。もう何度吐いただろうか、言ってる傍からまた。



「はぁー・・・」
「溜め息を吐くと、ツキが逃げるぞ」
「え!?望兄様!」



太公望のことを考えると、自然と出るようになってしまった。でも逆に、ツキが来た。予想もしなかった太公望の登場に、は驚きと焦りを隠せない。



「な、なんで、勝手に入ってこないで、望兄様でも」
「何度も呼んだが、返事がなかったもんでの。居るならそう言え」



西岐城に滞在の道士には1室が宛がわれ、ここはの部屋。呼ばれたことにも気付かないほど、思い悩んでいたのかと、改めて気付かされる。いらぬ誤解にも、太公望はズカズカ入り、の立っている窓際へと足を進めた。



「うぅん・・…考え事してたから」
「考え事?悩みでもあるのか」
「ひっ!」
「そんに驚く事かのう。軽く傷付く」



痛いところを突かれモジモジと顔を背け、止まった足音に顔を向けると、並ぶように隣に立っている太公望に、引くように驚いた。久しくなかった近い距離に、緊張から体が後退る。それには太公望も傷付いたのか、腕組みをして、窓から外を見た。



「望兄様・・・1人?」
「なんじゃ?1人に決まっておる」



太公望の態度よりも、なにか気になることがあるのかキョロキョロと、部屋の戸や窓を見ては落ち着かず、変なことまで口にする。不思議な顔をしている太公望に、挙動不審な気配を消せないであった。



「そう、なの。四不像と武吉君は一緒じゃないんだ」
「おかしなことを聞くな。いつも一緒ではない。だが、・・・」
「っ!」
「いつも側に居て欲しい者は居る」



これまでのを見ていて、そこは太公望、気付かぬわけがない。素知らぬ顔で舵を取り、話す側から聞く側へ、立場を変えてしまった。いきなりのことに返す言葉がなくて、は俯いた。



「なぜ。わしから離れる」
「望兄様・・…」
「側に、居てくれぬのか」



本当は顔を見てられなかった。ないと思っていた場所が、こんなにも闡明に示されていたから、自分が逃げていて、それを誰かの所為にしていた。スッと伸びた手は、の頬に触れ、顎に掛かると顔を上げさせる。その瞳から涙が零れた。



「…だ、って・・望兄様は……みん、な・の・・…・・ふぇ…ぅん」
「可愛い奴よのう。……」



溢れる涙で言葉にならず、話そうと一生懸命なに、笑みを見せた太公望は親指の腹で涙を拭ってやる。涙の痕は消えても涙は止まらず、困ったように太公望は距離を縮めた。



「望兄様」



近くなるそれに、は瞼を閉じた。やわらかな感触に頬を染め、触れては離れ、甘い酔いを繰り返す。微かな吐息を求め離さない。



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