無関心



「イルミって何に関心があるの?」
「・・・殺す。寝る」
「えっ!・・・・・イルミでも寝るんだ。・・・・・・なんで気付かなかったんだろ」



知り合ってからずっと疑問に思っていたことを聞いたは、返ってきた答えが意外というか、やはり人なんだと納得したように、手をポンッと打って大きく頷いた。眠りは全ての人々に平等にあるんだと、改めて知る。快晴の空の下、大きな公園の大きな噴水の前のベンチに座り、ここにいること自体が不釣り合いなイルミに、真剣にこんなことを口にできるのはだけだろう。謎が1つ解けて、スッキリしたのか勢いよく立ち上がり



「お腹空いたからクレープ買って来る。イルミは、いる?」
「いらない」
「じゃ、いってきまーす」



無邪気な子供のように走っていく後ろ姿に、傍目からはわからないが、複雑な表情を浮かべた。コロコロと表情を変えるといるのは飽きない。でも、満たされることはない。イルミのことを人では無いようにいうが、イルミのことに関心がないのはの方である。こうして一緒にいることが特別だと、分からないからだ。



「無関心なのは…だよ」



との出会いは、偶然だった。依頼を受けた標的に、タイミング悪く襲われていたのがで、それを知らずに殺したら、助ける形になった。薄暗い路地に標的の断末魔が響き、無惨に転がった死体の奥で、飛び散った血の掛かったがしゃがみ込んでいた。



「ウガァァァァッ!・…」
「!」



殺しを見られたら、その相手も殺す。そうしてきたはずなのに、目の前の肉片に叫び声すら上げず、引き裂かれた服を押さえ立ち上がると、ホッとしたように微笑んで、礼を言ってきた。



「あっ、ありがとう。助けてくれて…殺し屋さん?」
「・・・・・」
「わたしも殺されちゃうんだよね。痛いの嫌だから、一瞬で終らせて」



標的よりイルミに殺されるのがいいのか、自分から殺してくれと、静かに目を閉じ待っていた。命乞いをするか逃げるかで、邪魔くさく終わらしてきたのに、今までこんなことはなかった。



「・・・・・」
「・・・・・」
「まだかな?」



今では、必然だったと思える。あの時から始まっていた。



「これは、なんだ」



空を見上げ、太陽で手を透かすかのようにかざし、掴めぬなにかを掴む。虚無に射した光は、変化を遂げる。



「イルミー!おまたせ!」


まだ遠い。でも、お互いの姿が見える位置からは叫んだ。両手で大事にクレープを持って、一目散にイルミの元へ走ってくる。クレープだからいいものの、ジュースやアイスだったら惨事になっていただろう。



「込んでなくてよかった。あぅん!…美味しい!」



座るなり大きな口でがぶり、美味しいものを食べる時ほど幸せなことはないと、美味しそうに頬張る。口の端に付いたクリームを指で舐め取り、傍で見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。



「一口食べる?」



なんとなく視線を感じ、イルミの方へ差し出してみる。食べるわけないと思いつつ、1人で食べているのはちょっと気が引けた。食べない?と首を傾げ、引っ込めようとしたとき



「え…食べた。!!」



モグモグと食べてるところを始めて見たは驚いたが、クレープを見て更に驚き、無表情なイルミの顔が嫌気で歪んだ。



「って、一口って言ったのに、大口で食べた!美味しいとこ無くなっちゃったじゃない!せっかくのスペシャルトッピングが〜!」
「…ん」
「ぅう!」



クレープの中心部分を丸々食べられ、は返せとばかりにイルミをユサユサ揺すり、食べ物の恨みとばかりに詰め寄る。スペシャルトッピング、正にスペシャルな味にイルミは撃沈し、もう耐えられないとの口に推し付けた。



「甘マズイ」
「・・・・・・・・・・」



口を押さえ、いいようのない味が残る口内に顔が少し青ざめる。今のイルミになら誰でも勝てるかもしれない。その隣で、体をふるふる震わせて、俯いたの手から残りのクレープがペチャッと落ちた。



「わ、わたしは残飯処理班じゃなーい!それに、初めてだったのに…」



勢いよく出た言葉とは裏腹に、瞳からは大粒の涙が零れ、ぐずる子供のように泣きじゃくりだした。肩を大きく震わせ泣くに、どうしたものかと首を捻る。



「口直し」
「イルミのバカ!」



2度、3度触れた唇と腰に廻った腕に、涙は止まっても紅いまま、離れることはなかった。



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