仕事詰めで動けぬ科学班メンバーに代わり、とリナリーは出来上がったばかりの資料を分け合って、薄暗い廊下を司令室に向かっていた。女の子同士、話は尽きないが、ふと、は顔を曇らせ足を止める。



「・・どうかした?」
「わたしも妹がよかったな」
「えっ?」



それに気付いたリナリーも足を止め、気遣う用に窺った。そして、耳を疑う発言にリナリーは目を見開き、危うく胸に抱えた資料を落としそうになり、困った顔で掛ける言葉を探す。



「妹っていいものじゃないよ。兄さん、あんな人だし・・・」
「っ!愛されてるじゃない!あんなにも一生懸命になってくれる人いないよ。・・・リナリーが羨ましい。わたしも妹だったら、もっと近くに居られるのに」
・・それは」



確かにコムイは、そこらへんの兄とは違うだろうし、二人の生い立ちからすれば結び付きの強い兄妹かも知れない。でも、・コムイ双方の事情に気付いているリナリーからすれば、問題の解決は簡単なことなのだが、ややこしい方向に向かっているの考えに顰めた顔を戻すことが出来ないでいた。深刻なの顔に、ただただ眉間の皺を濃くするリナリーだった。



「リナリー!」
「な、なに?」
「わたし行けない」
「えっ!ちょっと!」
「あと、お願い」
!」



俯いたまま下唇を噛んでいただが、思い立ったようにリナリーの方を向くと足早に近付き、有無を言わさず資料を押し付けた。押し付けられたリナリーは抱えるのが精一杯で、ちゃんとしたことも言えず、の背中を見送ることしか出来なかった。肩を落としつつ、資料を持ち直したリナリーは複雑な面持ちで歩き出した。






コンコンッ!

「兄さん?・・・どこ行ったのかしら」



置き場所のない机の空いたスペースに資料を置くと、主人不在の部屋をリナリーは考え深げに見渡した。






「はぁ〜・・・リナリーに悪いことしたかな」



どこをどう走ったのか、足を止めたは頭を抱えしゃがみ込んだ。頭も冷静になってきて、自分がしたことに自問自答する。あれでは誰が見ても気付くだろうし、知られたくない相手に直球を投げたも同じだった。どうしてあんなことになったのか、感情的になった自分を悔やんでも後の祭りである。



「それより・・・バレたよね。あぁ〜言わなきゃよかった」



廊下の壁に向かい、頭を軽く凭れかかせると目を閉じた。浮かんでくるのは先程のやり取りで、口は災いの元というけれど、まさにそうだと実感する。リナリーに会ったとき、なんて言えばいいのか頭を悩ますであった。



「妹になりたいなんて、妹・・か」
「誰の妹ですか?」



伏せがちな瞳で前を見据え、独り言のつもりで言った言葉に、まさか返事が返ってこようとは思いもしなかった。ゆっくりとしたトーンが上から下へと通る。



「ひぃぇ!コココムイ室長!」
「誰の妹になりたいんですか?」
「えっ、・・・と!」



声のする方を見上げれば、コムイが覗き込むように立っていた。驚いたは上擦った声のまま、その場で体の向きを変えると壁に背を付け、しまった!と、墓穴を掘ったことに後悔する。自ら行路を断つとは、今日は厄日かもしれないとは顔を引きつらせた。それに、コムイの質問が一番触れられたくない点に着目していて、は二重の焦りを感じている。この状況を抜けるには、相手がコムイだけに厳しいかもしれないが逃れるすべを模索しようとした。が、相手はコムイなのである。



「コムイ室長!」
「誰の妹かな?まさか、僕じゃないよね・・・」



立ち上がろうとしたを静止させるように、コムイは膝を付きバランスをとるため壁に手を添えた。二人の距離は縮まったが、ペッタリと腰を下ろしているは分が悪く、コムイに見下ろされたまま、完全に逃げ道を失くしてしまう。コムイの一言、一言が耳に近付き、は成すすべなく目をギュッと瞑った。



「わかってないみたいだから教えるけど、妹だったら・・・『っぅ!』・・こんなこととか、こんな・・『ぁっ!』こと、できないんですよ」



コムイの動き〔皆様のご想像にお任せします。〕に、自分の意思とは関係なく反応を示した。は唇を噛み、コムイを押し退けようとしたが力が入らず、震える手ですがるようにコムイの服を掴んだ。紅く染まった頬を隠すように頷いたを胸に抱き、コムイは満足気に口元を解いた。



「わかってもらえてよかった。じゃ、続きを・・・」
「えぇ!」
「何か問題でもありますか?相思相愛の二人ですよ!」
「でも、ここ・・・」
「僕のプライベートフロアですから、誰も来ませんよ」
「そぅ・・・だったんですか?」
「そうですよ。!」



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