逆転
今回の任務は、簡単といっては聞こえが悪いが、イノセンスではなかったのでアクマの妨害も少なく、アレンにしては珍しく綺麗なまま、本部へ帰ることができた。今日ばかりは、いつも心配してくれているを悲しませずに済むと、アレンは足取りも軽やかにコムイの元へ向かった。
コンコン・・・
「失礼します」
「アアアアアアアアレンくん!」
「ヒィッ!」
室長室のドアを開けたアレン目掛け、床を猛スピードで這いながらコムイが縋り付いてきた。その切羽詰った勢いにアレンは立ち竦み、どうせ纏わり付かれるならがいいなどと思いを巡らせていたが、滝のような涙を流し見上げてくるコムイからの言葉に、アレンの表情は一変するのであった。
バタン!
「アレン君!すまないー・・・」
ドアが壊れそうな勢いで飛び出していったアレンの後に、そのドアを支えながらコムイが涙ながらに声を掠れさせ叫ぶ。申し訳ないといわんばかりに膝から崩れ、コムイの目から涙が枯れることはなかった。
コンコン!
「はい。どうぞ」
キィーッと静かに音を立て、ゆっくりと人影が足を見せた。勿体ぶる訪問者に少し不審感を抱いていると、見慣れたシルエットには頬を緩ませる。
「アレン君!」
椅子から立ち上がったはドアに向かおうとしたが、それに気づいたアレンはドアを閉めるとに駆け寄った。そっと体を支えるように触れたアレンは、そのままを抱きしめる。
「アレン君?」
数週間ぶりのアレンに、少々照れながらも心地よく納まっただったが、アレンの手の動きにそうもいかなかった。距離をとろうと、離れるためにアレンを見上げたは真剣な瞳に戸惑う。
「アレン君?あの・・・」
「・・・脱いで」
「えっ!」
「脱いで」
いつものアレンと違うと感じつつ、やっと口を開いたと思えば、耳を疑う発言には唖然となった。会えなかったとはいえ、いきなり言うことでもない。驚きの発言に返す言葉の見つからないをよそに、アレンは行動へと移した。
「・・・・・・ちょ、アレン君!」
「動かないで」
「待って、ダメ!」
呆然と固まっていただったが、スカートから引き出されたブラウスに我に返った。ボタンに手を掛けるアレンを拒み、逃げるといっても狭い部屋だけに逃げ場はない。こんなアレンを見たことがないし、いくら恋人とはいえ強引過ぎると、にも受け入れられないこともある。
「!」
「あっ・・・うぅ!」
「ごめん!痛む」
なんとかこの状況をと、アレンから離れたであったが、部屋の配置を考えずに動いたため、椅子に足を取られベッドに倒れてしまった。その時のアレンの声がやけに大きく聞こえ、倒れたと同時に脇腹を押さえたを気遣う姿勢が見える。アレンらしからぬ行動の糸が繋がったは、一人勘違いをし、心配させたくなくてしたことがアレンを傷つけていたかもしれないと、申し訳なさそうに口を開いた。
「アレン君・・・聞いたの?」
「ぅん。コムイさんが話してくれた」
ベッドに腰を下ろしたアレンも、少し言いにくそうに奥歯を強く噛んだ。膝の上で組んだ手は振るえていて、はいたたまれず顔を逸らした。
「ごめんなさい。わたしが隠そうとしたから、室長が話したんだと思う」
「僕もごめん。怪我したって聞いたら、頭ん中真っ白になって」
「痛みも腫れも引いたんだけど、痕が消えるまでは・・・まだまだだって」
お互いが顔を見れるまま、事の核心に触れる。発端はがある物質を調べていて、その最中に加熱した器具が破損し、その欠片がの脇腹に当たり怪我をしてしまった。そこにコムイの涙の訳もあり、指示をしたのが自分だからと責めていたのだ。傷の上に手を置き、相手を思っての行動がいい方に作用するとは限らないと、は素直に話した。
「見せてくれる」
俯いたまま、今思ったことをアレンは口にした。それに答えるように、小さく頷いたはブラウス、インナーのキャミソールへと手を掛ける。そこに恥ずかしさはなくて、なにも隠さずいようとするの決意があった。絹のような肌に、薬剤を塗ったガーゼが貼られている。ゆっくりと振り向いたアレンは片手を付き、もう片方の手でガーゼに触れようとしたが止め、そこへ顔を近付けていく。
「アレン君!」
驚くをよそに、アレンは軽くキスをして、ガーゼをじっと見つめた。この下の傷を見る日も遠くはないだろう、の肌に似つかわしい傷を恨めしくも、早く治るよう願う。
「ここは安全なはずだよね」
「そうだけど、例外はあるよ」
やっといつものアレンらしい表情に戻り、少々意地悪な口調でに視線を移した。現場と本部の危険度で比較すれば、本部は100%安全といえるが例外に引っかかる。その例外に、思い当たる点が多々ある2人は顔を見合わせ笑った。
「」
「なに?」
「この状況、耐えられないんだけど」
「えっ!なにを、わたし怪我人なんだからね」
「僕が頑張るから、はなにもしなくていいよ」
「ちょっと待って!それが一番厄介なの!」
「怪我人は大人しく、ね」
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