七夕



任務から帰るなり、アレンはリナリーから紙を渡された。



「これ、アレン君の分」

「なんですか、これ?」
「今日は七月七日で七夕」
「七夕?」



細長い紙を見つめながら首を捻るアレンに、一呼吸置いたリナリーはすぅーと口を開く。本日何度目かの、リナリー七夕講座であった。



「七夕。日本以外では馴染みはないげど、織姫と彦星伝説の祭みたいなもので、この短冊に願いを書いて笹の葉につるすの、そして、願いが叶うように祈りながら川に流す。その風習を思い出したコムイ兄さんの我が儘で始まったことなんだけど・・・珍しいことだからしてみたら、は食堂で頭抱えてるしね」
「あぁ、うん」
「じゃ、あとはに聞いて」



ひと通りの話が済むと、リナリーは慌しく掛けて行った。手にはたくさんの短冊を持っていたから、まだ配り回ることだろう。






「すごいなー。あれが笹の木」



言われるまま食堂に来たアレンは、奥に備え付けられた大きな笹の木に首を曲るだけ曲げた。どこから持ってきたなど、諸々のことは考えず、笹に釘付けとなったまま暫し歩く。色とりどりの短冊が飾られ、一先ず落ち着いた食堂内の人は疎らだった。



「う〜ん・・・・・・なにお願いしよう。っん!」



短冊と睨めっこして一時間は過ぎていた。ペンを放り投げたは何気なく前を見れば



「アレン君!」
「えっ!」
「なんで?まだそんな時間じゃ・・・・・・ごめん。アレン君」



思わず椅子を倒してしまいそうな勢いで立ち上がり、は錯覚かと目を擦ってから食堂の時計に目を向けた。時間は正確に進んでおり、やってしまったと首を落とす。申し訳なさそうな声が下からゆらゆら聞こえた。



。ただいま」
「おかえりなさい。アレン君・・」
「これ、書いてたんでしょ」
「うん」


帰ってくる時間を聞いていたのに、七夕に浮かれていたと落ち込んでいるに、アレンは笑顔と短冊を見せた。不思議な面持ちを傾げ、事を把握しているアレンに言われるがまま頷く。テーブルを越え、隣に来たアレンはを促し座り、短冊を覗いた。



「白紙だね」
「うん。書きたいこといっぱいあって、全部書くと欲張りだから・・迷って」
「へぇー。例えばなに?」
「アレン君が無事にっ、言ったら叶えてもらえない」



転がってたペンを持ち、は素直に答えた。願いが叶うなら、書きたいことは山程ある。アレンの誘いに、つられて言いそうになった口を押さえると、妙なとこで信心深かったりした。の願いの殆どはアレンのことで、それを除いたとしても、自身のことは考えにない。



らしいね。でも・・・」
「ア、アレン君!?」
「折角だから、同じこと書かない」
「同じ、こと」



触りしか聞いてないのに、アレンは全てを踏まえ納得した。のことはわかっている。だから、この提案を出した。ぐっとに近付き、息の掛かる距離で瞳を捕えると、静かに言葉を紡いだ。



「そう、とこれからもずっと一緒に居られますように」
「アレン君と、これからもずっと一緒に居られますように」

『この願いが、叶いますように・・・』



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