はらぺこ



黒の教団内・食堂



「お次は?」
「「ハンバーグとミートスパゲッティとシーフードピザとロールキャベツとエビチリとラザニアとグリーンサラダとコーンスープとライスにデザートは杏仁豆腐とモンブランで」」



料理長ジェリーのあとに、2つの声が重なり頼んだもの全て同じだった。だとすると、3人いなくちゃいけないのに、ジェリーとアレンはお互い見合っているが、もう一人がいない。



「アレンちゃん…今のは?」
「え…っと」
「ここです。ここに」



ジェリーとアレンが困惑している中、にょきっと手だけがアレンの横から伸びてきた。本人は振っているつもりだろうが、その手は垂れ下がり



「キャー!幽霊!」
「ジェリーさん、落ち付いて」



幽霊のように白い手を辿ると、うつ伏せに寝てるというより倒れている人がいた。格好は探索部隊でフードを被っている。



「(探索部隊の人だよな)あの、大丈夫ですか?」
「お腹が…空いた」
「なになに?」
「探索部隊の人みたいです。お腹が空いたって」



恐る恐る声を掛けるアレンに、小さなか細い声が呟いた。気になるようでジェリーもカウンターから覗き込むと、格好とアレンの言葉に、思い付く人物が頭に浮かぶ。



「あの子ね。人騒がせな」
「えぇ!ジェリーさん?」
「ほっといて構わないわよ」



一安心したのか、ジェリーは厨房へと消え、慌てたアレンにさらりと言葉を残すだけだった。どうしたらいいのか、ほっとけと言われても倒れているに変わりはないし、仕方なく席へと運ぶことにした。



「よっ、軽いな?・・…ここでいいか」
「アレンちゃーん!なに?ほっといて良かったのよ」
「でも、あのままじゃ」
「優しいのね。はい。おまちどーん」



ある程度の予測を付けていたのだが、思いの外軽かったことに驚き、近くの椅子に座らせテーブルに突っ伏せた。動く気配はない。ジェリーに呼ばれ振り向くと、片手で頬杖を付いていて、複雑な面持ちのまま料理を取りに行くと、頼んだものがズラッと2人分出来ていた。2人分の料理をせっせと運び、最後の2皿をテーブルに置く。



「これで最後かな」
「優しいんだね。ありがとう」
「えっ!」



ずらり並んだ料理を眺めていると、隣から声がして、顔を向けたアレンは驚いて1歩下がった。きちんと座り、フードを取る。



「お、女の子だったの!」
「こんな格好じゃ、気付かないよね。これでも、一応」



フードの下から現れたのは女の子で、なぜ探索部隊なんて危険な仕事をと、言いたくなるほどの美少女だった。開いた口が塞がらず、アレンは自分の両手を見つめ、ついさっきの事を思い返す。触ってない。触ってたら気付くはずと、自問自答を繰り返していた。



「ねぇ。自己紹介は食べながらでもいい?お腹ペコペコでさ」



アレンの動揺に気付かず、マイペースに目はお皿に釘付けで、いつの間にかフォークとナイフを握っていた。



「いいよ・・…」
「いただきまーす!」



豪快な食べっぷりに見る見る皿が空っぽになり、結局、全てを食べ終えるまで会話は為されなかった。初対面から驚きの連続で、見た目とのギャップに振り回され、アレンには少し窶れ感が滲む。



「ごめんね。食べるのに夢中で」
「いいよ。別に・・・・・・」
「それじゃ、改めて」



スッと立ち上がり、手を差し伸べ笑顔を沿えた。



「探索部隊の。よろしくね」
「僕はアレン・ウォーカー。よろしく」



慌てて立ち上がると、手を取る。の笑顔に少し照れて、照れ隠しに鼻先を軽く掻いた。2人の中に、なにかが芽生え始めていた?



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