はぐはぐ
常日頃から、歳相応な顔なんてしてない冬獅郎だが、今日に限らず、此処のところ苦労が増したのか、眉間に皺を寄せる回数が心成しか多くなっていた。その原因を話せば、皆が首を背け、関わり合いにはならない。それは、冬獅郎だけの問題であるから・・・・・
「日番谷隊長!」
ビクッ!
十番隊執務室に、朝から元気な声と共に笑顔で入って来たのは、十番隊所属・。階級で言えば下っ端なだが、冬獅郎の愛する部下であり、護廷十三隊内では知らない者はいない公認カップルである。しかし、恋人であるの登場に、冬獅郎は肩を震わせるほど怯え、敵と対峙するほど鋭い顔で身構えた。
「っ・・・・」
「おはようございまーす」
ぎゅーう!
一目散に冬獅郎の元へ向ったは、態度の変化など物ともせず、あと一歩の距離で手を広げると、人目を気にせず冬獅郎を抱きしめた。は幸せそうだが、冬獅郎はというと、石像のように突っ立ったままだった。
「固まったわね」
この部屋での、唯一の人目は副隊長の松本だが、慣れたように一瞥し、昨日片付かなかった仕事に取り掛かった。どうしてがこのような仕草をするようになったかというと、任務で現世へ行き、ナニを見てきたのか帰って来たら、冬獅郎限定で抱き付くようになってしまった。嬉しい反面恥ずかしく、毎日のことだけに慣れるべきことなのかもしれないが、冬獅郎はまだ、踏み越えられないでいた。
「離せ!鬱陶しい・・・」
「顔、紅いですよ」
「うるさい!松本は仕事しろ」
「してますけど」
「・・・・・・」
乱暴に腕から抜けたが、照れから強く言えないでいると、松本にからかわれ、拗ねたように口を尖らせた。ここまでがいつもの光景で、微笑ましく見届けたは職務へと戻ろうとした。
「それじゃ、失礼します」
「!・・・待て」
歩きかけたを、慌てて冬獅郎が止めた。ただ止めたのではなく、後ろからを抱きしめて、今度は立場が逆になり
「どうしたの?」
「えっ!・・・だって」
突然のことには固まってしまう。松本の指摘に、顔から耳までが真っ赤になっていた。いつもしていることなのに、するとされるでこんなにも違うのかと、複雑な気持ちが言葉に出た。
「初めてだよ。されたの、嬉しいけど・・・・・恥ずかしいが、勝って」
「少しは気付いたか」
「うん。でも、やめない」
どんな思いでいるのかを分かってもらいたい。咄嗟の行動は正しかったと思いきや、懲りない言葉が返ってきて、冬獅郎は項垂れるように腕を離した。眉間の皺は今日も刻まれ、苦労は続く。
「」
「日番谷隊長が大好きだから」
お返しと、に抱きしめ返された。でも、今度のは違う点がある。愛情表現+ラブが込められている。どっちも変わらない気はするが、愛は増えているわけで、冬獅郎の様子もなんだか違い。
「わかった。なら・・・」
「え?日番谷たぃ、ぅん・・・」
さっきまでは抱き付かれて固まっていたのに、それが嘘だったほど、余裕の笑みを見せる冬獅郎が目の前にいて、近付く息に逃げようとした体は、今までは宙ぶらりんになってた手が廻され捕まっていた。の警鐘が鳴り止まぬ中、唇は塞がれた。
「俺も加減しないから、覚悟しとけよ」
「・・・・・隊、長」
冬獅郎の愛情返しに、少し後悔するだった。
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