初恋



十番隊執務室。
机に向かい、何枚もの用紙を手に十番隊隊長・日番谷冬獅郎は職務を行なっていた。しかし、彼此数時間。疲れたよりは飽きてきて、お茶を啜ると席を立った。



「松本。あと頼む」
「どちらへ」



残りの仕事を副隊長・松本乱菊に渡し、戸口へと向う。渡された用紙に目を通しながら、松本は去って行く背中に問いかけた。



「息抜き」
「サボリですか」



さらりと返した言葉に、ぐさりと突っ込まれ、引き戸を開ける手を止めると、片眉を吊り上げながら松本に吠えた。



「息抜きだ!俺の仕事は終った」
「はいはい。ごゆっくり」
「ちっ…」



用紙に目を向け、日番谷を見もしない乱菊に舌打ちし、不貞腐れたまま出て行った。スッキリしない気持ちを抱え、あてもなく歩く。遊ばれているのか、いちいちムキになってる内はガキかと、組んでいた腕を下ろし、顔を上げる。そして気付く、どこをどう歩いたのか、ここは?



「普通…廊下で寝るか?」



目の前で、廊下を塞ぐように横たわっている者がいた。隊長といっても、他の隊のことは知らないし、その1人1人を覚えているわけではない。そのまま跨いでほっとこうかとも思ったが、後々厄介なことになっても困ると、近付いた。



「おぃ!おまぇ……」



起こそうと近付いたら、女であるとは見た目でわかっていたが



「…ぅー
、むにゃむにゃ・・」
「っ!……なんだ、動悸が」



身動ぎ、肩から滑る髪が顔を見せた。長い睫毛に雪白な肌は少し色づいて、桃色の唇から吐息が漏れる。触れようとした手を止め、その手はゆっくりと日番谷の胸に落ち着く。死覇装を鷲掴み、普段よりも速く打つ脈に戸惑う。落ち着けと、2、3歩下がった。



「なんだ、これ。(鎮まりやがれ!)っ!」



日番谷は内の変化に、どうしていいのかわからない。この場を去れば収まることかもしれないが、視線を外すことが出来ず、このまま置いていくわけにもいかなくて、簡単なことではなかった。日番谷が葛藤している中、その者にも変化が起きる。



「わぁ!ああああああー!寝過ごした・・…また、怒
られる
「お、おい!」


パチパチと目が開いたと思ったら、大声と共に、ムクッと起き上がった。ここはどこ!っとキョロキョロしたかと思えば、立ち上がり、次にフラフラとよろめく。立ち眩みのように体が言うことを利かないのか、不安定な体勢で膝が折れ、咄嗟に、その体を日番谷は受け止めていた。



「えっ……ひ、日番谷隊長!ししし失礼しましたぁ!?」
「あっ!お前」
「あ、れ・・・・目の前が、真っ暗にぃ……」
「って、おい!」



浮いたような感覚に、支えられている相手を見て驚いた。日番谷が知らないのは当然であるが、相手からすれば、隊は違えど各隊長を知らないわけがない。慌てて立ち退いたはいいが、急な動きが続いたせいで、今度は本当に只事ではなくなる。日番谷の驚いた声が脳裏に響いたのが最後、意識は遠退いていく。



「まったく・・・・・」



日番谷の腕の中で、眠るように意識を無くした。出会ってから、まだ幾らも経っていないが、色んなことがあったせいか動悸が直っている。近くにいて、触れて、瞳に映って、もう知った気でいるのはいけないことだろうか。






次の日。



「過労と寝不足だとよ」
「ご足労掛けてすみません。それと、ありがとうございました」



四番隊・総合救護詰所の第一治療室の一部屋。昨日、ここに連れて来て、そのまま安静にさせるということで泊まらせた。相手の素性もわかり、驚くこともあったが、どうしても会いたくてわざわざ足を運んでしまった。この気持ちはなんなのか、松本に言えば笑われそうなので言わない。でも、言いたい相手はいる。



「お前みたいなのが、十一番隊とはな」
「よく言われます。あっ、わたし、十一番隊第九席・です」
「ほんとに、なんで十一番隊なんだ」
「そう言われても・・・」
「十番隊に来ないか?」
「えっ」
「傍に置きたい」



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