待てない
「更木隊長。終りました」
椅子に踏ん反り返って座っている十一番隊隊長・更木剣八に向うは、十一番隊第九席・。副隊長の席を借り、本来なら隊長及び副隊長がするべき、事務的業務を代行して行なっていた。
「終ったの?じゃ、これお願い」
どこにいたのか更木の背後からヒョコッと顔を覗かせた十一番隊副隊長・草鹿やちるは、の声を聞くなり戸口へと走った。そこには誰が置いていったのか、用紙が山のように高く積まれている。
「やちる。てめえのはてめえでやれ」
「あぁ〜!ずるい!剣ちゃんだって全部ちゃんにやってもらったくせに、人のこと言えないもん」
「うるせえ!」
人任せにするやちるに、体を前に戻しながら一喝するも、口を尖らせ同罪と腕を組み反論した。バツが悪そうに顔を顰めた更木は、一枚上手だったやちるに言葉を吐き捨てると立ち上がる。
「あっ!剣ちゃんどこいくの?」
戸を開けたところで更木の背中に飛び乗ると、二人はどこかへ行ってしまった。静かになった執務室に、溜め息が木霊する。
「はぁー。始めますか」
山積みの束を何回かに小分けし机に運ぶと、休む暇なく取り掛かった。時間とともに山は減っても、幾つかあるうちの1つでしかなく、骨の折れる業務である。
「やっと、半分か…」
椅子に座った状態から上半身だけ伸びをした。同じ動作の繰り返しに、体も固まり疲れも溜まってくる。首を廻し、もう一息と机に向かった時
ガララララッ!
不意に開けられた戸を見る。
「…日番谷隊長」
そこにいたのは十番隊隊長・日番谷冬獅郎。仁王立ちに、不機嫌そうな顔は大人顔負けで、十一番隊だというのにズカズカと入って来た。終始無言で、紙の山に囲まれたの前で止まる。
「…またかよ」
「仕事ですから」
「断りゃいいだろ!九席のする仕事じゃねぇーよ」
「そうなると、他の隊長さん達の仕事が増えます」
「それは困る」
不機嫌+呆れ顔で、軽く腕を組み溜め息を付いた。がこれでは、何度言っても話にならず、日に日に増える仕事の量に、冬獅郎の苦労と我慢は限界に来ている。しかし、がこれでは、何度言っても話にならず、平行線を辿るばかり。
「なら、文句はなし」
そして、丸められて終る。が、いつものパターンであったが、今日はそこで引き下がらなかった。
「ある」
「!?」
仕事に戻ろうと、ペンを取った手を掴れる。邪魔をするわけではなく、ちゃんと見てほしくて、ちゃんと話したくて、その手からペンを取り、そっと重ねた。驚いている瞳を合わせ、不器用な笑みで冬獅郎は口を開く。
「俺はどうなる」
「…日番・・谷隊長」
「俺と仕事…どっち」
愁いを帯びた瞳が、大人でもなく子共でもない、微妙なバランスを保ってに向けられた。二人は非公認だが恋人同士。隊が違う分、少しでも長く一緒に居たい気持ちは同じ、でも、踏みきれないでいるに、冬獅郎は敢えて問う。
「そんなの…ずるい」
逸らせない瞳が大きく揺れ、仕舞ってあった思いが芽を出し始めていた。いけない事ではないが、身分や周りの目がを意固地にさせていた。でも、それを、冬獅郎から解かしてくれている。
「俺は、そんな大人じゃねぇ。だから・・…待ってられねぇーんだ」
「冬獅、ろぅ。…近付き過ぎぃ・・…ぅ、ん」
の手を引くと、反対に冬獅郎は近付いた。言い終わった時には鼻が着く距離で、慌てるを余所に、唇は引き寄せられるよう重なる。少し強引で、でも、確かめるように優しく何度も繰り返し口付けた。ゆっくり離れ、頬を染め俯いたに、冬獅郎は最後の念を押す。
「どっち、とる」
「・……冬獅郎」
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