気になるアイツ
「い〜ち〜ご!熱心に誰を見てるんだ」
「どれどれ?」
昼休みの屋上で、変わらぬ面子が顔を揃え、残り僅かな時間を過ごしていた。話も絶えないが、フェンスに凭れていた一護の下ろした視界にある人物が映り、気付かぬうちに周りも気になるほど見入っていた。
「誰も見てねぇーよ!」
苦しい紛れの乱暴な言葉に、クラスメートの小島と浅野は慣れているのか、見せまいと拒む一護を押さえ付け、フェンス越しに一護の脇から覗き込んだ。特定できていた訳ではないため、2人は一護の視界にあったものを1つずつ消していく。
「あれは男だし…」
「あの子でもないよな……あぁ!」
「さん?」
中庭から校舎へと目を這わしていくと、浅野の目が3階で止まった。その後を追っていた水野が、そこのにいる人物の名を呟く。
「…?」
「一護……同じクラスだよ」
「へっ……?」
「一護!お前もさんを…さんを…!」
ポカーンっと、初耳な顔をした一護に、小島が諭すように事実を告げる。まだわかっていない一護に、浅野が飛び掛る勢いで詰め寄った。滝のような涙を流し、訴える目で迫り来る。
「さんはな、別格なんだ…高嶺の花なんだ!同じクラスでも、まだ言葉すら交わしたことのない男子生徒の憧れなんだ!」
「僕、喋ったよ」
「なにぃ!?」
熱弁を奮う浅野の後ろには、薔薇に囲まれ、さらに美化されたの美しい姿が映し出されていた。そこに水を差したのが小島で、今まで一護に向けられていた浅野の念は、小島へと標的を替える。
「喋った。喋っただとぉ〜!」
「く、苦しいよ。近いよ」
「…か」
浅野と小島を視界から外し、何事もなかったように一護の目は向かいの校舎へ。その瞳には、数日前のことが浮かんだ。
「はな……ぁ」
帰宅途中の十字路に差し掛かったとき、電信柱の横に花瓶が置いてあり、気付いた時には小さな男の子の霊が一護を見ていた。通りたくなくても、遠回りするのもめんどくさくて、素知らぬ顔で通し過ぎようとした。
「ねぇ、お兄ちゃん。僕が見えるの?」
「見えねぇーよ」
ニッコリと笑った男の子に、しまったと顔を顰める。ぶっきらぼう頭を掻き、また除霊かと、張っていた肩を落とす。やる気のない背に声が掛かった。
「黒崎君?」
「?」
「お姉ちゃん!」
一護を追い越し、男の子は笑顔で声の主に走り寄った。その行動に驚きつつ、霊が見えるぐらいの奴なら少しはいると振り向いた一護だが、そこには衝撃的な光景が待っていた。
「えぇ!さ、触って…」
「黒崎君も見えるの?」
「えっ?ああ…(誰だ?)」
見覚えのある制服を着た少女が、霊である男の子の頭を撫でていた。開いた口が塞がらないまま驚いていると、向こうは一護を知っているのか、親しく声を掛けてくる。しかし、一護には覚えのない相手、この少女も霊かと疑いを持ち、一歩引いて状況を見定める事にした。
「お兄ちゃんも見えるって、今日は新しいお友達が出来たね」
「うん!今度、遊んでもらうよ」
「良かったね。いっぱい遊んでもらえるね」
「ちょっと待てぇ!」
黙って聞くことにしたが、2人の会話に勝手に巻き込まれている事に口を挟んだが、顔を見合わせ、息を合わせて微笑ましく「ねぇー!」とされ、普段の自分が出せずに流されてってしまった。結局、男の子は霊だったが、後々思い出した少女の制服は、空座第一高等学校、同じ高校生だったとまでしかわからなかった。
そして、空座第一高等学校・午後十二時三十二分
屋上にて、少女を見つけた。偶然と思っていたことが、知らされる事実に必然となり謎は解けたが、一護の中にシコリを残した。
「…名前は」
「へぇ?だけど」
「一護?」
視線が、から離せなかった。無意識に出た言葉に、じゃれ合っていた2人は動きを止め、ポツリと返す。一護の様子を不思議に思った2人は、揃って顔を向けた。ゆっくり開いた唇が、紡ぐ言葉は
「・・…」
「一護…」
自分でも聞こえるかわからないほどの声で、名を言った。2人の存在を忘れ、誰と話しているのか笑顔の絶えないを見つめ、聞こえるはずのない向かいの校舎へ。
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