三日月
戸魂界から虚を昇華・滅却する任務を受け、三番隊所属・は現世に下りていた。こっちに来て早2日、順調に任務は遂行しているものの、物足りなさを感じていた。
「なんでだろ・・…ホームシックかな?」
誰もいない夜の公園で、1人ジャングルジムに腰掛け膝の上で頬杖を付き、薄暗い光を放つ外灯をただ見つめ、静かな夜に寂しさが募る。大事なお仕事ではあるが、頻繁に虚が現れるわけでもなく、かと言って、簡単に倒せるほど強くもないので、気の抜けた状態ではいけないのだけれど、戸魂界との環境の違いに適合できていなかった。
「寂しいな……1人って、ツライ」
出るのは溜め息と弱音ばかり。外灯から顔を上げ、見上げた先にあるモノを見つけた。夜の闇を照らす光。
「月!気付かなかった…三日月か」
ぼっーと眺め、ふと気付く。
「笑われてる気がする」
ちょうど三日月が口に見え、誰かに薄ら笑いされてるようで気に障った。今の心境では、月さえ情緒良く見れず、なにを思ったか、ジャングルジムの上で体勢を変えると足を掛け、逆立ちするかのように逆さまにぶら下がる。地上から頭までは数十p。
「あっ!三日月を逆さまに見ると…市丸隊長の目に似てる」
不安定な体勢から随分低くなってしまったが見えた三日月は、曰く、自らの隊長である三番隊隊長・市丸ギンの絶えず笑っているのか?アレが普通に開いている目なのか?その目に見えた。
「そっ、か…隊長がいないから……」
まだ2日。経った2日だが、戸魂界ではどこにいてもなにをしていても、気付けば市丸が側にいて、くっ付いてきて、ギュってしていた。それが嫌で、1人になりたいと思ってたのに、嫌よ嫌よも好きのうちとは、よく言ったものである。感じていた寂しさが市丸だったとは、胸が苦しくなった。
「なんでだろ、会いたい。……市丸たいちょぅ」
薄っすらと覆う涙を隠すように瞼を閉じる。大きくなっていた市丸への感情に、恥ずかしさから慌てて目を開くと
「呼んだ」
「ひぃえぇぇぇぇぇぇぇ!」
見忘れたことのない顔が目の前に現れ、は悲鳴ともいえない叫び声を上げ、自分の今の状態を忘れ暴れた。市丸がいるわけないと、夢か、妄想か、パニックの結果。
「えっ、あ!」
引っ掛けていた足を放してしまい、一瞬、空中で制止。あとは、落ちるのみ。
「いきなり危ないなぁ。でも、捕獲」
「い、い市丸隊長!ど、どうして!」
にんまりと笑みを浮かべた市丸に、落ちようとしていた体は肩の上で、米俵でも担ぐようにキャッチされた。やっと、現実と認識したは、慌てふためき問うと、頭を上げ、首を捻れるだけ捻り市丸へと顔を向けた。
「会いたい。言うたんは、やろ」
「だ、だからって!」
「たまには離れるのもええかと思って、その方がわかるやろ。お互いに」
含みを持たせた言い方に、少し前の自分を思い出し、恥ずかしさから顔を逸らした。でも、市丸の続く言葉に、上気した頬は一気に冷めていった。
「まさか…嵌められた!」
「さぁ、帰ろ。帰ろ」
ゆっくりと錆びたブリキのように首を動かすと、楽しそうな市丸の顔が悪魔に見え、引き攣った顔のまま、全て仕組まれていたことなんだと悟った。行き着く先は決まっているから、最後の足掻きを…
「誰が好きになるもんか!」
「好きなんや」
「違います。キ・ラ・イ・で・す!」
「嘘吐きやなぁ。ええよ。別に」
「えっ?」
「悪い子にいうこと聞かせるんも、隊長の仕事やろ。素直な口になるまで、たっぷり躾るで、覚悟しぃ」
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