忘れ物
高校生カップルと言えば、お互いのクラスを行き来したり、放課後や土日デートとか、手を繋いだり、じゃれ合ったり、キスしたり、早ければ……。これが健全な高校生の姿だと、1人思い悩んでいるのは王城高校2年・。
「デートぐらいしたいなぁ〜…」
放課後の誰もいない教室。静寂の中、遠くに微かな部活生達の掛け声が聞こえていた。多くの者は各自の部活動に励んでいるというのに、1人ずれた発言で机に突っ伏した。悩みがあるから、その悩みは発言から1人では解決されない悩みである。
「今日も練習…何時に終るんだろ」
教室の備え付け時計を見て、自分の腕時計を見た。時間は同じ、1日の授業を終え、まだ1時間ほどしか経っていない。上げた顔をまた、机に寝かせた。が悩む、悩みの種は
「あと何時間経ったら会える?進君は…違うの?」
今日も1人待ち惚け、悲しい呟きに返る言葉はない。悩みというのは、恋人・進清十郎のことであった。今日は昼休みに会ったっきり、今に至る。進にとってアメフトが一番なのはわかるが、これでは片思いの時と変わらない。それより切ないかもしれない。
「・・・・・はぁ〜、帰ろうかな」
「帰ってなかったのか」
「っ!」
薄っすら膜を張った涙を払うように頭を振り、弱気な自分も一緒に払うと、未練は残しつつ立ち上がった。の言葉に被せるように、もう1人の声が教室に響く。それは数時間前に、声がするならそこにいる。
「進君…どうしたの」
振り向いた先に、会いたかった進がいた。トレーニング着姿のまま、会いたい気持ちが通じたのか、の心は舞い上がる。ドキドキを抑え、平静を保とうとするが、頬の紅潮は止められなかった。
「まだ、練習中でしょ」
「ああ。忘れ物があってな」
「忘れ物…」
迷いなく近付いて来る進に、恥ずかしそうに俯く。自分のために来てくれたんじゃないかと、心に淡い期待があった。目の前で止まった進に、一瞬息を呑み、次の動作に緊張から全身に力が入る。空気が動き、反射的に目をギュッと閉じた。
「傘を忘れた」
「・・・・・・か・さ・・」
「にわか雨が降ると言っていたが、どうして俺の席に」
「ひぇ!ちょっと…か、帰るね」
伸びた腕は、の期待を裏切り机に、手には進には小さいんではないかと思われる折り畳み傘があった。行き過ぎた期待に、は脱け殻になり、進の言葉など耳に入らず、慌ててその場からいなくなりたかった。
「」
「っ・・・・・進君!?」
急な退席に動いたのは進で、の手を取り、引き寄せるように抱きしめた。すっぽりと胸に閉じ込められてしまったは、何が起きたのかわからなかった。ただ、温かくて力強い中に、自分と同じ気持ちを見つけた。
「気を付けて帰れよ」
「う、うん」
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