三重タイムズ 平成12年2月25日(金)より転載    前代未聞の言論弾圧    本紙での発言を問題視 享栄学園が久保憲一教授を解任 津地裁に地位保全の仮処分申立 昨年11月5日号の本紙で、日本世論の会三重県支部長で鈴鹿国際大学教授の久保憲一氏(49) に、歴史認識や歴史教育の問題、三重県人権センター のあり方、日本人としてのアイディンティテ ィなどについてインタビューをした。しかしその後、鈴鹿国際大学を経営する学校法人享栄学園(名 古屋市・堀敬文理事長)は、本紙での久保教授の発言を捉え、学園の名誉と品位を害し、生徒・学生 の募集への悪影響のほか、関連諸機関との信頼関係を失墜させたとして、1月17日付で教授職を 解任し、学園本部付事務職員とした。 久保教授が学問上、思想上の信念に基づいて発言しただけのことがなぜ処分の対象になるのか。久 保教授の発言を理由に、享栄学園や大学に何らかの圧力があったのか。久保教授側は16日、津地 方裁判所に地位保全の仮処分の申立を行った。民主主義国家の日本で起こった、前代未聞ともいえ る言論弾圧“久保教授解任 ”事件を取材した。 1月17日付の享栄学園堀敬文理事長名の戒告書によると、懲戒の理由として「平成11年11 月5日のタイムズ紙面で、鈴鹿国際大学教授の肩書において行った発言。これまでの講義方法等(東 条英機に関する映画の鑑賞を強要するかのような指導等)。公的機関である三重県人権センターに対 する誹謗ともとられかねない発言などが、学園の名誉と品位を害し、生徒・学生の募集に悪影響を及 ぼし、関係諸機関との信頼関係を著しく失墜させるものであった」としている。  久保教授に対する当局の対応については、久保教授のメモや録音テープでたどることができる。 (要旨のみ掲載する)。  平成11年11月29日午後4時、学長室で勝田吉太郎学長が「君の新聞ざっと読んだだけだが、 大変なことをしてくれたね。問題になっているんだよ。君、部落問題は本当に怖いんだよ。彼らが 大学に押しかけてきたらどうするのかね。その時は君に責任をとってもらうしかない。もし君が助け を求めるなら、共産党に助けを求めなければならない」などと久保教授を責め立てたという。  翌30日には、大学の応接室で久保教授は、堀敬史学園副理事長や堀敬紀鈴鹿国際大学入試広報 室長と話し合っている。  堀室長が「三重県同和課の課長から先生の件で問い合わせがあった。私は慌てて調査書などの書 類を持って行った。人権センターの記事は同和問題ですよ」。  堀副理事長は「学生募集で大変な時期なので責任をとってくれますか」などと話している。12 月3日には堀室長のほか、武部学部長、杉山事務局長、中野学生部長、戸室教務部長と会談。  堀室長が「この日曜日(11月28日)にたまたま三重県教職員組(三教組)の役員と会った。そし て久保先生のことを聞かれた。久保先生の新聞記事(発言)は全国でもっとも強い三教組に戦いを挑 んでいることになる。久保先生には辞表を出してもらいたい」。  中野学生部長は「大学を救うために辞めてもらいたい。これは理事長、学長、みんなの意見です 。学長に晩節を全うさせてあげてください」と久保教授に迫った。  この後、当局と久保教授との間で何度かの交渉が行われ1月17日に戒告書と教授解任の辞令が 出された。  名古屋市の学園本部で行われ1月17日の会談では堀敬文理事長、堀敬史副理事長らが出席。久 保教授のいわば最後の弁明の場しなった。久保教授の発言の要旨は次の通り。  鈴鹿国際大学教授の肩書での発言について・新聞社(三重タイムズ)の判断で行ったものだ。特別 な意図はなく、(私も)了承した。  人権センターはほとんどが部落問題の資料や展示で占められている。ほかにも重要な人権問題が 山積している。要するに一部に偏った内容になっていると指摘しただけだ。そのほかの資料も反日自 虐史観のものが多いため、もっとバランスのとれた内容にしてほしいということだ。(三重タイムズ の)記事は言葉足らずの面もあるが、発言趣旨はほぼ間違いないと思う。  これまでの講義方法について・映画「プライド」を観にいけば加点してあげると学生にいった。 これはフィールドワークだ。小中学生が学校から映画を見にいくのと同じことだ。しかし強制はし ていない。まったく任意で、それも受講生の一割程度にすぎなかった。レポートも求めていない。  久保教授は総括的な意見として「社会的になんの抗議もない。三重タイムズにも私にもなんの苦 情も来ていない。なぜ大学の内部でこういう問題になっているのか分からない。人権センターにも なんの苦情もないと聞いている。人権センターの所長には(思想・信条とは別に)、私の考えにそれ なりの理解を頂いていると思っている」と話している。  また当局側が久保教授を威圧するかのように、三重県同和課の課長や三教組の名前を出したこと について、三重県同和課の長田芳樹課長は本紙の取材に、「まったく覚えがない。電話もしていない し、会ったこともない」としている。  また植地英志三教組中央執行副委員長は「昨年11月24日に鈴鹿国際大学の堀さんから久保先 生の件で、挨拶にきたいということで別の者がお会いしたと聞いている三教組としてどうこうする問 題ではない」とコメントした。 享栄学園と大学は何に対して脅えているのか。学生募集の影響とは一体なにを意味しているのか。 本紙は堀副理事長に取材したが具体的な話はなく、「弁護士に任せている」としかコメントしなかっ た。  大学教授が身分を明らかにして発言することは、ごく当然なことであり、人権センターについて も問題点を指摘されることは、公的機関であれば、なおさら当たり前のことではないのか。   “久保教授解任”事件は一地方大学の問題を越えて、学問・言論の自由と戦後民主主義が問わ れかねない事態といえる。(この稿16日現在) 皇學館大学 松浦光修助教授の話  昨年、歴史認識問題などで、私も久保教授と同じように「三重タイムズ」のインタビューを受け ました。そのときの久保教授のインタビュー記事をあらためて読みましたが、それが教授解任に相 当するようなものだと考える人は、常識人のなかには、おそらく一人もいないのではないでしょう か。それを理由に教授を解任されたのなら、まったくもって、あきれた話です。そういう判断をし た真の主体がどこにあるのか。今はよくわかりませんが、そういう人々には「自由と民主主義」が、 まったくわかっていないというしかありません。  ああいう記事で大学教授を解任できるのなら、おそらく今後、日本全国の大学教授やジャーナリ ストは、何も言えず、何も書けないことになるでしょう。このような不当な言語統制を決して許し てはなりませんし、そんなことが許されるのなら、日本は「自由主義国」と称する資格はありませ ん。今回の件は、明らかに言論の自由に対する弾圧、学問思想の自由に対する封殺で、基本的人権 の侵害です。個々人の思想的な立場を越えて、自由と人権を大切に思う人ならば、すべての人が「 許し難い暴挙」と憤慨するに違いありません。