主ジョウのすゝめ

その1

   はーっ、とワンのスケは溜息を付いた。
 自軍の城の、中庭に彼はいた。芝生の上に直に座り込んで、空を見上げている。
「なに?大きな溜息だね?」
 横に座っていたニャンタが、見咎めたように肩を竦めた。
「大事な相談があるって言うから、テッドを置いてついてきたってのに、随分だね?」
「あっ、すみません…」
 慌てて、ワンのスケは居住いを正してニャンタを見つめる。
「実は…ジョウイのことなんですけど…」
「うん?」
「彼を手に入れるには、どうしたらいいと思います?」
「…は?」
 真剣すぎるその目に、ニャンタは首を傾げる。
「彼を…彼とやり直すって事?」
「いいえ、彼を僕のモノにしたいんです!僕だ・け・の彼に」
「………そう」
「はい。僕だってこんなことになって、もう二人が昔のように仲が良かっただけの日々が返って来るなんてアマっちょろいこたぁ思ってません!」
 だから、とワンのスケはニャンタの手を力強く握った。
「考えるに、僕が彼を個人的に手に入れればそれでオールオッケーなんじゃないかと!」
「…そっか…」
 考えちゃったのかーとニャンタはぼんやりと思った。
 なにがどうそれでオッケーなのかは解らないが、考えちゃったんなら仕方がないよなーとか思う。…どうでもいいけど。
「それでですねっ!宿星をひん曲げてテッドさんを御自分のモノになさったニャンタさんの貴重かつ重大な御意見を、熱く!激しく!!お聞かせ願えたら、とそういう次第です。はい」
 最後だけ可愛くまとめたな。ニャンタはやはりぼんやりと空を見上げた。
 テッド…今何してるかなー………。
 で、なんだっけ?あーそうそう、ジョウイをモノにする話だったよな。
 どうでもいいけど。
「んーそうだね」
 それでも、可愛い弟分の願いに答えようと、ニャンタは思索を巡らせながら口を開く。
「僕がジョウイ君の魂をソウルイーターで喰っちゃるから、抜け殻を好きにするってので、どう?」
 ニャンタの提案にワンのスケは瞬きし、
「………大変、良い案だと思います」(←奴は本気だ!)
 でも、と申し訳無さそうに目線を落とした。
「抵抗しないんじゃ、つまらないと思うんですよー?」(←更に本気だ!!!)
「…そう」
「それにやっばり、暖かい方が、良いですし」(←それは妥当だ)←そうか?
「ああ…まあ、そうだね」
 ほんと、どうでもいい…ニャンタはまたまたぼんやりとそう思った。

 その2

「マイクロトフさーん」
「これはこれは、ワンのスケ殿。いかがなされました?」
 手を振って駆けて来るワンのスケに穏やかな笑みを浮かべて、マイクロトフはワンのスケを迎えた。
「あ、カミューさんもいたんだ?」
「今晩和。ワンのスケ殿」
 今気付いたように言われて少々傷付きながらも、そんなことは露とも出さず、カミューは今の主人へにっこりと極上の笑みを返した。
 ここは彼等元騎士団長の部屋がある、ちょうど中間の廊下。右に行けばカミューの部屋、左に行けばマイクロトフの部屋がある。
 今は夜の9時を少し廻ったところ。でも、マイクロトフはもうそろそろ眠いらしく(笑)軽く目を擦っている。
「こんな時間にお出でになるとは珍しい。なにか火急のご用ですか?」
 それでもいつもの礼儀正しい態度を崩さない。ワンのスケはクスリ、と含み笑いを漏らして、マイクロトフの腕に自分の腕を絡めた。
 びく、とカミューの眉が動くが、無視する。
「僕、このごろ寂しくて…。今夜はマイクロトフさんと一緒に寝たいなーってお願いなんですけど…」
 可愛らしく小首を傾げて伺うと、マイクロトフは苦笑した。
「俺はあんまり寝相よくないですよ?それでもよろしければ、歓迎いたしますが…」
「マイクロトフッ!!!」
 途端、厳しいカミューの声が、マイクロトフの言葉を遮る。
「な、なんだ?カミュー。急に大きな声で…」
「あ、いや」
 怪訝そうなマイクロトフへと一つ咳払いをし、カミューは言葉を続けた。
「しかしそれはまずいんじゃないかな?軍師殿も心配されるだろうし…」
「あー、シュウの許可ならもう貰ってあるから」
 はい、決まりー、とワンのスケは更にべったりとマイクロトフへとしがみついた。ぴくぴくぴくっ、とカミューの肩が小刻みに揺れるがこれも無視。
「じゃあマイクロトフさん!今日お風呂一緒に入って下さーい。背中流しっこしましょう」
「ええ、いいですよ」
 ガーン!!!
 独りショックに打ちのめされている親友にも気付かずに、マイクロトフはワンのスケを伴い、自室のドアを開けた。
「じゃあカミュー、また明日…」
「マッ、マイクロトフッ!!」
 戸を閉めようとした瞬間、がっ!とカミューの手が戸に掛かる。
「カ、カミュー?」
 驚くマイクロトフに、カミューはにっこりと極上の笑みを返した。
「お前の煎れたお茶が、飲みたいな」
「え?今からか?」
「物凄ーく、飲みたいな。飲まないと、絶対、寝れそうにない」
 にこにこにこにこにこにこにこにこにこ。
 笑顔の圧力に押されて、マイクロトフははあ、と溜息をついた。
「わかった…煎れてやる」
「ありがとうマイクロトフ。愛してるよ…」
「…なっ?!…」
 耳元で囁くと、マイクロトフが真っ赤になる。カミューはそんなマイクロトフを見て幸せを感じたが、ワンのスケは勿論面白くない。
 『なんだよ、ベタベタしちゃってさー。こっちはジョウイと会えなくて苛ついてるってのに!ムカつく腹たつ苛つくっっっ!ようしっ』
 嫌がらせしてやるっ。どうせそれが目的なんだし。(←ひでェ…)
「僕もマイクロトフさんの煎れたお茶、飲みたいなぁ」
 猫撫で声でマイクロトフへとすり寄りながら、ワンのスケはここぞとばかりにその逞しい腰へと抱き着いた。
 ついでにスリスリもしちゃう。えへ。
「………っ!!!!!」
 そして大方の予想通り、見た目には分かりにくいが激しいショックに見舞われている元赤騎士団長カミュー27才。
「?」
 そして更に大方の予想通り、現状把握が出来ない元青騎士団長マイクロトフ26才。 
「ああ…マイクロトフさん。ジョウイの香りがするよ……」←意味不明  
 そして少し(いやかなり)心が荒んできているリーダー・ワンのスケ。
 彼ら3人(どっちかってーと2人)の不毛な戦いは、その夜一晩続いたという………。

 後日談。マイクロトフは先に寝たらしいこと判明。そんだけ。

 その3

 クルガンがやってきました。
 大広間でワンのスケたちは、和平交渉の書状を持ってきたという彼を迎えていた。
「ジョウイ・ブライト様よりの書状をお持ちしました」
「ジョウイ・ブライト〜?ええっ、それってもしかしてジョウイの事っ?」
 ナナミが驚いて甲高い声を上げる。
「はい。ジョウイ様はルカ・ブライト様の妹君であられるジル・ブライト様との正式な婚姻により、ハイランドの新たなる皇王となられたのです……」
「えええっ?!!!」
「ジョ、ジョウイが結婚っ???そんでもって皇王様ぁ?!」
 クルガンの言葉にショックを受けたのは、当然のごとく、ワンのスケとナナミの二人。  ワンのスケなどは怒りでふるふると震えている。
 ヤバいな…。
 その場にいたニャンタは、即、そう思った。取り合えず重役会議なので親友のテッドはいないから安心だが、自分の身の安全も考えた方がいいかもしれない。
 そう思ってドアへとこっそり移動しようとした瞬間。
「うわぁぁぁぁぁんっ!ジョウイの浮気者ぉぉぉぉっっつ!!!!!」
 切れたワンのスケが傍に居る者を片っ端からぶちのめしていく。
「僕が…僕が彼を大人にしてあげるはずだったのにっ! 酷いよジョウイッ!!!」
 広がっていく屍。怯えまくるクルガン。そして速やかに避難した要領の良いニャンタ。だが、ワンのスケは止まる気配を見せない。
「こうなったら、ジョウイを殺して僕も死ぬっ!!!!」
 やけくそで放った一撃がクリーンヒットし、とうとうクルガンも倒れた。
「ワンのスケっ………」
 尚も暴れる彼を止めたのは、義姉のナナミだった。
「ナナミ………っ」
「大丈夫。お姉ちゃんがついてる」
「ナナミっ」
 わあっ、とナナミの胸に泣き崩れるワンのスケ。
「大丈夫よ。いつかきっと、また三人で楽しく暮らせる日が来るわ……」
 宥めるようなナナミの言葉。
『それは一生無理だろ…』と、独りニャンタは心の内で突っ込んだのだった。

 その4

「マイクロトフさん。結婚して下さい」
 至極真面目な面持ちで、ワンのスケはマイクロトフの手を握り締めた。
 は?とマイクロトフが首を傾げる。
「僕と…将来はこの国の王となるこの僕と、一緒に未来を歩みましょうっ」
「…はあ」
「ちょっと待て!」
 盛り上がる(片っぽだけ)二人に割り込むように、赤い固まりカミューがワンのスケとマイクロトフを引き離す。
「なんだ、カミューさん。二人の愛の語らいの一時を邪魔しないでよ」
「なんの冗談なんです、ワンのスケ殿!?」
 引き攣った笑みを口元に張り付けて、カミューは静かに問うた。
 しかしそんなカミューの様子などどこ拭く風。ワンのスケはあっさりと、
「やだなあ、僕本気ですよー?ジョウイが他の女と結婚したのなら、僕だってジョウイ以外の嫁を貰ってもOKでしょ?で、まあこの城の中ではマイクロトフさんが僕に一番相応しいと思うんですよ。…ジョウイは愛人にすることに決めましたし」
「当てつけの結婚に、マイクロトフを巻き込まないでいただきたい!!!」
 やや声を荒げながらも、カミューは今だ冷静に振る舞おうと努力していた。生まれついての伊達男。そして隣には想い人。みっともないところは見せたくない。まあ、告白された当の本人はと言えば、今だワンのスケの言葉の意味を理解しようと真面目に頭を捻っていたが。その端で、今日ってエイプリルフールだっけ?なども考えていたりする。
 が、そんな二人の事など全く意にも介さずに、ワンのスケはびし☆とマイクロトフを指差した。
「マイクロトフさんっ! 僕のお嫁さんになったら、毎日ステーキ食べ放題ですよっ?しかも牛は日替わりでっっっ!!!!」
「………!」
「惑わされるなマイクロトフっ!!!!ステーキのために一生を棒に振る気かっ」
 よろり、と思わず半歩踏み出したマイクロトフの肩に、カミューが縋り付く。
 はっ、とマイクロトフは顔を挙げて、
「お…俺は今、何を………?」
 愕然と自分の手を見つめた。(何故見る?(笑)
「しっかりしろ、マイクロトフ! 私がついている」(←憑いているらしい)
「かみゅー……」
 しっかとマイクロトフの手を握り締めるカミュー。そのカミューに潤んだ目を向けるマイクロトフ。
 今、確かに二人のために世界は存在する(笑)。
「…今僕のお嫁さんになると、洩れなく『世界のお肉食べ放題チケット』百枚綴りプレゼントォ!!」
「済まないカミュー」
「ああっ?マイクロトフっっっ」
 あっさりと身を翻し、ワンのスケの元へ駆け寄るマイクロトフ。
「じゃあカミューさん。そゆことで」
「…お前の事は忘れないから…」←ひでぇ(笑)
「マイクロトフ--ッ!!!!!!!!」
 去り行く二人の後ろ姿に、肉に負けた元赤騎士団長はその場でがっくりと膝を付いたのだった…。

  後日談。カミュー大暴れのため、婚約破棄(笑)。
      やはり嫌がらせよりも、城の方が大事だったらしい…。

   その5

「ワンのスケ…同盟軍のリーダーなんかやめて降伏してくれ」
 そう言ったのは、たおやかな薄金の髪をした線の細い少年。
「ジョウイ………」
 辛そうに目を眇めたのは黒髪の、やや小柄で、大きな目をした少年。
 ジョウイの後ろには彼の軍師、レオン=シルバーバーグ。ワンのスケの後ろには彼の義姉ナナミと、トラン解放軍伝説の英雄、ニャンタが控えている。
 辛そうに、ジョウイが目を臥せる。
「もう僕は後戻りはできな………」
「こンの浮気者ぉぉぉぉっ!!!」
 どっかーん、とワンのスケはジョウイを蹴り飛ばした。
「なっ…?な…げほっ、げふっ…」
「ジョ…ジョウイ殿っ?大丈夫ですかっ」
 もろに腹に決まったのか、しゃがみ込んで咳き込むジョウイと慌てて彼に駆け寄る彼の軍師をゆらりと見下ろし、ワンのスケはにた、と笑った。
「僕を裏切った罪…重いよ?」
「………うげっ!?」(←うげ?)
「な…なにをするつもりだ?これは和平会議…」
「さあ、ニャンタさん!ジョウイの魂、ソウルイーターでどーんと頂いちゃって下さい!!」
 レオン=シルバーバーグの言葉を遮って、ワンのスケは大仰にニャンタへと振り向いた。
「…う、がはがはっ」
 ジョウイが余りの事に目を見開いて何か言おうとするが、代わりに胃の腑から咳が溢れた。よほど強く蹴られたらしい。
 そんなジョウイと、目を輝かせているワンのスケとを見比べて、はあ、とニャンタは溜息を付いた。
「ワンのスケ…この間、それだと抵抗しないからつまらないって言ってなかったっけ?」
 あと、温かくないと嫌だとかなんとか…。言ってたよね?と首を傾げて確認を取る。
「ええ、確かに間違いなく、言いました」
 妙に自信満々、ワンのスケは頷いた。
「ですが、今の状況でそんなゆーちょーな事は言ってられないと思うんですよう?ジョウイが僕以外のモノと結婚してしまった今となっては手段は選んでいられませんし!そんなわけで」
 そこで、びし☆とまだ咳き込んでいるジョウイを指差し、
「ジョウイの身体を永久保存して、一生僕の慰みモノにすること決定!に急遽変更しました」
 いや、することにしました。って言われても………。
「ワンのスケってば頭良い!それならずっと三人で一緒に暮らせるもんね?」
 目を輝かせて感極まった声をあげるナナミ。
 …本気か?そうか??そうなのか???
 ニャンタだけでなく、その場の誰もが心の内で突っ込んだ。冷や汗などを垂らしつつ。だが声に出して訴える者はいない。
 所詮は人事他人事。下手に関わってとばっちりをくったら堪らない。
「わ…ワンのスケ………ちょっと…待…っ」
「問答無用!」
「ああっ、ジョウイ殿っっ!!!!」
 やっと咳が治まったジョウイに今度はカカト落しをくらわしてあっさりと黙らせると、ワンのスケはさあ、とニャンタを促した。
「………」
 なんだか酷く納得できないが、それでもニャンタは右手を掲げようとした。その刹那。
「ジョウイお兄ちゃーん!!!!」
 ワンのスケの脇を小さな物体がすり抜けていく。
「ピリカちゃん?」
「ジョウイお兄ちゃん!死んじゃ嫌ああっ!!!」
 倒れたままのジョウイに縋り付くピリカ。
 ちっ、とワンのスケは舌打ちした。
「シュウめ…ピリカを使うとは………」
 まるっきり悪役の口調で自分ちの軍師に悪態を付くと、ワンのスケは悔しげに目を閉じた。そしてくるり、と背を向けると、
「ふっ…まあいい! 障害が多ければ多いほど、僕たちの愛は燃え上がる!!!! 次に会う時がジョウイ、君の年貢の納め時サVそのときまで身体を磨いて待っているがいいっ!!!!!」
 でわサラバー、とワンのスケは独り走り去っていく。
「ああっ、まってよワンのスケ!お姉ちゃんを置いていくなあっ!!!」
 その後に続くナナミ。
「………じゃあそゆことで今回の平和会議は失敗、と」
 手をチャ、と上げてそう言ったのは、ピリカを連れて来たビクトール。
 そして彼等はその場を後にした。

「はっ?彼等をここで逃がしては…!」
 敵軍師、レオン・シルバーバーグがそのことに気付いたのは、扉が閉まって直ぐの事だったという………。

                              終わり


*多輝節巳さんコメント*  

いいのか、これで……?(汗)いや、それ以前にこれ『主ジョ』なんだろうか…?



*コメント返し*

ありがとう、ありがとう。何ていうかとてもあなたらしいSS。
これはこれで私スキですよ? 何がスキってニャンタ様が(笑)

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