| 蒸し暑い夏の午後コウ達は風の吹く丘の上を歩いていた。
 
 「なんであんたが付いて来るのよ!」
 「黙れ!瞑想の時間を邪魔したのはどこのどいつだ!!」
 「昼寝してただけでしょ!ちょっと、踏んづけちゃったくらいでなによ!」
 「良くそういう事がいえるな!だいたい、この私が散歩に付合ってやっているというのに、どんな不満があるというのだ」
 「ありまくりよーーーーー!!!!!」
 
 ミューズで切迫した会議が連日行われているのが嘘のような、平和な日常だった。
 コウとジョウイは、後ろで行われている怒鳴り会いなど気にもせず、のどかに空を見上げていた。
 
 「結構遠くまで来たね、コウ」
 「うん」
 「へへ」
 「いひひ」
 
 本当にのどかなものである。
 さやさやと風は頬をなで、水の臭いを運んでくる。
 と、不意に暗くなった空に、真っ白な線がよぎり世界を白く染めあげた。
 
 どーーーーん
 
 「「「!!」」」
 「きゃ〜♪雷よ〜〜♪」
 「どこか非難出来る場所は!!」
 「いやだ!落ちてくる!!」
 「さっき見つけた洞穴に行こう!」
 
 一人はしゃぐナナミをよそに、男衆は雷にも負けぬほど顔面を蒼白にして避難場所を捜し求めた。
 
 「ふ〜〜、あんまり濡れないですんでよかったね♪」
 
 駆け足で洞穴に辿り着いた丁度その頃、大粒の雨が地面を叩き付け出した。
 ほっと一息つくナナミ。
 しかし男性陣は一息つくどころか、体を緊張に強張らせて、白い光が空を染める度にビクッと、引きつり脅えている。
 
 「なによ〜〜!!男の子なんだから、雷くらい平気でしょう?!もう!揃いも揃って情けないわね〜!!」
 「「「誰のせいだ!誰の!!」」」
 
 3人の怒声がぴたりと重なりこだました。
 
 
 * *********コウ君の心の手帳〜〜♪**************
 アレックスさんに連れてこられたシンダルの遺跡も、もう後少しになった。宝箱は全部取り尽くしたと思うし、後はあの扉をくぐるだけ。
 シンダルの遺跡で、すんなりお宝が手に入るなんてことあるのかな?
 もし敵と遭遇した時も焦らずにすむように、皆に装備の再確認をしてもらう。
 
 やっぱり敵との戦闘になった!
 頭が2つもあるヘビでとても強い。
 お姉ちゃんが怒りの一撃の札を掲げている。あれで大ダメージが与えられれば!!
 ピカッッッ!!!
 何故か隣に立っていたはずのザムザさんが光に包まれて、すすだらけの顔をして居る。
 「あれ〜〜?おっかしぃなぁ〜〜??」
 !!!!!
 背後にナナミお姉ちゃんの声を聞いた。と、思った次の瞬間、僕も今まで味わった事のない電流の中に居た。
 「3度目の正直〜〜〜!!!」
 僕の後ろでジョウイの悲鳴が聞こえる。
 ・ ・僕はお姉ちゃんに殺されるんだろうか?
 そんな考えが、ふと頭を過ぎる。
 へビの頭を思いっきりたたいてお姉ちゃんに目を向けると、なんだかぶつぶつ言いながら皆の共有の道具袋を漁っている。
 だめだ、僕のスピードじゃナナミに勝てない・・。あきらめの心境に達しつつあったその時、まだ行動の終わっていなかったザムザさんが真っ青な顔に底光りのする目をしてダブルヘッドに殴りかかった。
 巨大なヘビが空中に浮かぶ。
 地面に叩き付けられたヘビはぴくりとも動かなくなった。
 荒い息遣いに、ぎらついた目でヘビを見詰めるザムザさん。
 「な〜んだ、もう倒しちゃったんだ」
 振り返ると、ナナミが札を握り締めて、少し残念そうな表情でヘビを見ていた。
 皆一気に力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
 今日、僕は心からザムザさんに感謝した。
 生きてこの日記が書けて本当によかった。
 
 追記:ナナミには金輪際雷の封印球は持たすまいと心に誓った。
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 「誰のせいって・・自分のでしょう?3人揃って雷が怖いなんて、情けないなぁ〜〜」
 「ふざけるな!お前がな〜!!・・」
 
 瞬間沸騰するザムザとは対照的に、ジョウイは深く、静かに切れた。
 
 「ナナミ。この辺りでは雨の日にお化けが出るって、町の人が噂してたよ。・・あ。ナナミ!肩に手が!」
 「!!え、え、え、うそーーーー!!いやーーーーーー!!!!!!」
 
 悲鳴を上げて真っ青になるナナミ。
 弱点を心得た幼なじみは、ささやかな復讐を終えて、ふんとナナミに背を向けた。
 ふと気付くと、コウが並んでしゃがみこみ、ジョウイの顔を覗き込んでいた。
 
 「・・・・なんだよ」
 「いじわる」
 
 一瞬の間。
 ぷっとお互い吹き出した。
 ちらりと後ろを振り返ると、ナナミが悲鳴を上げながらザムザの首を絞めあげている。
 それを見ながらぼそりと一言。
 
 「あのさ、ザムザさんがいて良かったね」
 「・・コウ。君も鬼だね」
 
 ジョウイは笑いながらコウの頭に手を乗せて、栗色の髪をかきまわした。
 ぎゃいぎゃいワイワイ騒ぐうちに、外では雨はあがり、虹が出た。
 彼らが虹に気がつくのは、もう少ししてからである。
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