彼の人生に幸あらんことを祈る
風のない晴れた日の事。
ロックアックス城の門の前で、マイクロトフはこれから出かけるカミューを見送りにきていた。
「気をつけてな・・・カミュー」
「ああ、一週間後には荷物と一緒に帰ってくるから・・・期待して待っていてくれ」
「わかった」
じゃあ行ってくる、とマイクロトフに手をあげ、四角い封筒を大事そうに抱え込んだカミューは片手で颯爽と愛馬に跨がると、その腹を軽く蹴った。
「カミュー・・・」
遠ざかる背をみつめながら、マイクロトフは小さな息を洩らす。
「マイクロトフ団長・・・」
背後からそっと呼ばれ、振り返ればいつものように悲痛な表情をした腹心の部下、ラインの姿がある。
「カミュー様はいかれましたか・・・団長・・・」
「ああ・・・。・・・ゴルド−様がお呼びなのだな?」
問うと、ラインが悲痛な表情を浮かべた。
「団長・・・やはりこんなことは止めにすべきです! カミュー団長に相談した方が・・・」
「駄目だ!!」
その言葉を激しく拒絶すると、ラインの肩がびく、と震えた。
「・・・団長・・・」
「・・・すまん、ライン。お前が俺の身を心配して言ってくれているのはよくわかっているのだ・・・しかし、カミューにだけはこのことを知られたくない」
「しかし・・・」
「軽蔑・・・されたくないんだ。頼む・・・」
哀願するように目を閉じて、マイクロトフは首を振った。
その姿に、ラインもそれ以上は何も言えなくなる。
「すまない・・・ライン」
一言そう呟いて、マイクロトフは立ちすくむ部下を置いて城の中へと歩き出した。
ラインは拳を握り締め、マイクロトフの身にこれから起こるであろう不幸を呪った。
「団長・・・私はぼろぼろになっていく貴方を見るのが辛いのですよ・・・」
苦し気な呻きが、風にさらわれて消えていった・・・。
いつからだろう、こんなことになってしまったのは。
カミューが今日のように出かけた日のことだった。
その日、マイクロトフはゴルドーの部屋に呼ばれた。
それ以来、カミューが出かける度にゴルドーの部屋へと呼ばれるようになった。
今日からまた・・・あの悪夢の日々が始まる。
マイクロトフはゴルドーの部屋の前で足を止めた。
一瞬だけ躊躇し、そして軽くノックする。
「誰だ!!」
「・・・マイクロトフです」
不機嫌そうなゴルドーへドア越しに声をかけると、おお、と嬉しそうな声が上がった。
「早く入ってこい!!」
「・・・失礼します」
マイクロトフは覚悟を決めてドアを開けた。
この中へ入ったが最後、カミューが戻ってくるまで外に出られるかどうか判らない。
・・・・上司の期待に答える・・・これも騎士の務め・・・。
挫けそうになる心を無理矢理納得させ、マイクロトフは足を進めた。
中へ入り、きちんとドアを閉めると最初に教えられた通りカギをかける。
「ぬふふふふふ。待っておったぞマイクロトフ。今夜は寝かせんからな・・・」
その言葉に、マイクロトフは顔を顰めた。
・・・今日だけじゃない、明日も明後日も、マトモに眠れるかどうか怪しいものだ。
いつだって解放される頃には身も心もぼろぼろになっている。
マイクロトフは諦めたように息を吐き、嬉しそうに手招きするゴルドーの元へと近付いた。
「1週間しかないからな。早速やってもらおうか」
「・・・わかりました。なにからですか?」
「消しゴムかけ」
すぱーん、と勢い良くマイクロトフはゴルドーの頭をハリセンで叩いた。
「な・・・いきなりなにをするかあっ?」
「いきなりなにするかじゃないでしょううううっ?! なんで今ごろペン入れてるんですかあああああっ?!」
「・・・だって、だって仕方がないんじゃ・・・わし今スランプで・・・」
「スランプなら無理して本作らなくてもいいでしょうにっ!!!」
「嫌じゃ〜!!! 折角の同盟軍コミケ(注・夏コミ・冬コミ規模)に新刊がなにもないなんて恥さらしなこと、白騎士団団長として恥ずかしいわっ!!!!」
「・・・・ならコピー本なんてせせこましいこと止めて、カミューみたいにオフ本を作ったらどうなんですか!!!」
「あやつは大手じゃからそれでいいが、わしらでは・・・在庫が・・・」
遠い目になって、ゴルドーは明後日を向いた。
ら、ってなんじゃい!?とマイクロトフは心の中で突っ込みを入れる。
絶対、一緒にされたくない。
「とにかくっ、時間があるうちにきちんと計画的にやらないから後で切羽詰まるんですからねっ!!!!わかってるんですかっ?」
「・・・だって・・・」
「・・・・だってじゃないっ!!!!! とにかく、さっさとペン入れて下さいよっ!!!!ああっ?このページ真っ白じゃないですか-------っ?!!!!!!」
こうして彼らは眠れない・・・・。
それからしばらく後。
ゴルドーの部屋の前を通ると、何回かの確率で、
「俺は同人屋である前に人間だ--------------っ!!!!!!!!!」
などと言う悲痛な叫びが聞けたりするらしい。
*多輝サンのコメント*
血吐きネタ・・・。
オチはいただきましたよ。うふふふふふ。←怪しい。
このネタ笑って読める人は素晴らしいね・・・。多輝は大体笑えるけどな(笑)・・・時々駄目だけど(死)
そうそう、カミューさんは所謂成人女性向け本、ゴルド−様は少女マンガチック青年愛を描いてるらしいことを補足しておかねばなるまい(大笑い)
*花子よりコメント返し*
あははははははははは!(抱腹絶倒)ホントにスゲー!
多輝サンてこういうネタ書かせたらピカイチね!(←誉めている)
めちゃめちゃ笑えないけどね、私は(死)
オチネタ提供花子。っつーか実話。
前々回の修羅場で、私が遠い目をしてつぶやいた言葉でゴザイマス(イヤすぎ)
そして、『ああ、これネタだわ…』とか思ったら、多輝サンが拾ってくれました(笑)
ありがとう。
…修羅場って人間やめないと出来ないよ…。
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