カセグレンの望遠鏡の調整に取り組んで             畑中 明利

1,はじめに

1989年に、望遠鏡を設置し、撮影に使用してきたが、細部まで写らず。2007年に、田阪氏に主鏡の
再研磨をお願いした。しかし、肉眼では、文句なくよく見えるのだが、撮像をすると今ひとつ細部まで
写らない。土星のエンケやリングの模様のようなかすかな模様は写らない。
 それとseeingの影響を大きく受け、seeingが悪化すると、とたんに解像力が低下する。
セレストロンのC11と比較しても、明らかに40cmの方が良く見える、ただコントラストは、C11に方が
明らかに良い、月面などを見るとc11の方がクリアーである。 
何とかこの原因を確かめ徹底的に改善する作業に取りかかったのが昨年の夏である。

2,凸鏡の選択と光軸修正
     
凸鏡は、3面研磨してもらっていた。再研磨前のミラー1面、再研磨時に2面新しく研磨してもらった。 
それぞれ、田阪氏の研磨番号No97、No100、No101の3面である。 
最初は、センタリングスコープの自作を試みた、ほぼ完成したが本物を使ったことがなかったのでどん
なものか気になった。
結局、高橋製の本物を買うことになった。自作したものも十分使えたが、やはり本物の方が合わせや
すいので、本物を使っている。
 使い方は、このスコープで凸鏡の中心(ほぼ)に付けた点とスコープの接眼部のセンターが重なって
見える様に凸鏡の向きを調整する。
これで凸鏡が主鏡の方向を正しく向いたことが確認できたことになる(だいたい)。
次に、主鏡の向きを調整するといった具合である。

・【No101鏡面】 
夏まではNo101を装着していた。焦点を合わせていくと星像が焦点の前後で斜めに潰れるのでおかし
いと思い調整はしていたのだが、どうも凸鏡のひずみ(アス)が原因らしい。
それと、恒星の星像を見ながら調整するのだが、素直(理論どおりに)に変化してくれない。
おかしい?よく調べてみると、どうも接眼筒の先端の絞りの穴の径が小さく、けられて事が解った。
 試しに、絞りをはずして光軸修正調整すると素直に修正できるようになった。
この鏡は、アスがあるので除外することにした。

・【No97鏡面】 
内外像を調べると、内外像は,非対称ではあるが、他の鏡面   よりは対称に近い。
 焦点像もすっきりしてコントラストが良く、やはりこれが良いかという感じ。 月面はクリアに良く 見えたのだが、
肝心の惑星面がピントが悪く今ひとつである。seeingの影響なのか、ピント が悪いのか判断に迷うseeingが
続き、この鏡は、再研磨前のものなのでピントが甘いンだと いう結論に達しNo100に交換する。

・【No100鏡面】  
 No100の鏡面は、外像で穴(凸鏡の影)が大きく,
 対称な像は見えない。幸いseeingが悪くてもRegistaxを使って
 処理すると、好seeing時のような内外像が得られるので、昔に
 比べればこの作業は楽である。 
 内外像をフォトショップに 貼り付けて眺めていてふと気づいた。
 内外像を使って光線の通り道を図示できないか?
  やってみた。 外輪同士をつないだ直線の交点と内輪同士を
 つないだ交点はずれている。 
 約3mmもずれている。レンズの内側と外側で結ぶ焦点位置が
 3mmずれているのである。
 焦点がどこで合っているのか解らず撮影時には苦労しており
 ノギスで計ったり色々やったが、焦点の幅が3mmもあったわけ
 である。 いわゆる球面収差である。
 解ったことがある、内外像が対称なら球面収差が0に近いなら
 問題ないのではないか? 
 主鏡はパラボラで再研磨前と後では仕様に変化はない。
 凸鏡の設計は、引き出し量を大きくしたので異なるが、引き出し量が変わるだけである。 No97でも問題ないはずだ。

・【再びNo97鏡面】
 内外像が、対称に近かったNo97に再び付け替えてみたが、内外像は、非対称なのである。  
 球面収差もやはり3mmある。 ????
 ならばどこが悪い?、35cmより外側 、30cmと35cmの間、25cmと30cmの間、20cmと25cmの間、
 20cmより内側の焦点をそれぞれ計ってみた。
 結果は、25cmより内側と外側で、おおよそ3mm焦点がずれているのである。
 そこで、直径25cmの上の円盤を作り(街角で配っている紙のまあるい団扇がちょうど良かった)、望遠鏡の前に
 取り付け撮影してみた。
 コントラストは良くなったように思った、ただし光量は約半分、seeingの影響を大きく受け土星のカッシニがうまく写らない。
 何重にもグチャグチャに写る、この時前の紙を取り外して写すとカッシニはややぼけてはいるが一重に写る。 
 ・・・????なんで?


 
3,凸鏡の再研磨?
 やはり再研磨か? それにしてもどこをどのように修正すれば良いのか、めくら滅法やってみるわけにも行かず。
 修正量を計算できないものか考えた。エクセルを使い、中学校レベルの反射の法則に従って、三角関数や逆三角関数を
 使って計算をした。 思ったより簡単にできるように思われた。
 しかし、なかなか1点で焦点を結んでくれない、10mm近く内側と外側でずれるにである。 
 原因は、近似にあった、主鏡のある位置から反射した光が、凸鏡の当たって跳ね返る位置が正確に出せないのである。
 凸鏡は、球面でありしかも中心と外側で半径(曲率半径)が違うのである。
 エクセルの表の数値(凸鏡に当たる場所の)を少し換えると大きく焦点位置が変わる。
 原因はこの位置にあった。計算方法を考えたがうまい方法を思いつかず。 手探りでこの位置を推測し、合成焦点を3mm
 ずらせておいて、凸鏡の曲率半径を,修正して1点で焦点が合うように計算してみた。
 結果は、約0.8mmである。 結構大きな値である。????

 4,主鏡の精度は?
 4面ある凸鏡を変えても球面収差は、3mmとあまり変わらないので、主鏡の精度も疑ってみた、この球面収差は主鏡に
 よる物かもしれないと疑ったわけである。
 以前の主鏡は内外像が非対称で、再研磨してもらった経緯がある。
 そのため、凸鏡をはずしその先端に以前直焦点撮影に使っていた接眼装置を取り付け、内外像を撮影しました。
 以前は筒の先から覗いて内外像を見た記憶がありますが、
 今回はDMKカメラを取り付けて撮影しました。ずいぶん楽で
 良い写真が撮れました。 
 内外像は、若干非対称で、球面収差は、0.2mmというところ
 でした。
 再研磨の後テストしてなかったのですが、再研磨前と比べて
 明らかに改善されていることが解ったので一安心と言ったとこ
 ろで


 5,凸鏡の位置
  凸鏡の位置が、そんなに微妙なら凸鏡の位置を動かしたらど
  うなるのか? ずっと考えていて実際に移動させて検査したこ
  ともあるのだが、もう一つ上手くいった感じがなかった。
  凸鏡は外側に、いくに従って曲率半径が大きくなっている。
 そのため凸鏡を主鏡側に移動すると、主鏡からの光が当たる位置が、凸鏡の外側に移動し結果的に、外側の焦点が短
 くなり(焦点位置が手前になる)。 書物を調べると凸鏡に位置 を多少動かしても殆ど影響ないと書いている。
 実際、高橋 のミューロンや、セレストロンのCシリーズなどの多くのシ ュミカセは、主鏡を移動させて焦点を合わすものが
 殆どである。

 N097は、以前テストした時は、対称に近かったのに、今回付け替えると、明らかな非対称であった。???
 どうしてという思 いがあった。
 もう一度、凸鏡位置を移動させてみた、主鏡側へ3m m移動させた。
 以前は、惑星を導入して見え味から判断するしかなかったが、今は内外像から球面収差を測定できる。
 内外像を撮影してみると、3mmあった球面収差は、1mm強に変化していた。
 焦点は以前と同じようにクリアーで気持ちの良いものであった。
 早速西に傾きつつある土星を導入したが、7月末はジェット気流や、
 冷気が南下 して各地に豪雨を降らせており期待したほどの画像は得られ
  なかったが,今後のSeeingに期待したい。 
 8月後半思い切って凸鏡を後2mm主鏡側に移動させた。若干外像で、穴
 (凸鏡の影)が大きいかなという感じだが、ほぼ対象であった。 
 喜び勇んで木星や月を、恒星を見て見たが、seeingが悪く期待したような像は
 得られなかった。
 しかし、8月28日、seeingに恵まれ、恒星を見ると内外像とも中間輪
 (ジフラクションリング)がよく見え、恒星像もすっきりとした感じでやっと満足できた。
 翌早朝、木星を撮影、まだ高度が低く大気の影響が大きくぼけや揺れが大き
 かったが、まあまあの撮影ができたと思っている


 6 本当にこれでよいのか?

 凸鏡の位置を調整(5mm移動)することによって、一応内像外像が対称になり、焦点が理論上1点に光が集まることになった。
 後は実際に満足いく画像がとれるかということである。 今後、木星の高度が高くなるに従いどのような画像が得られるか、
 冬場に向かいseeingの悪化とともにその影響をどの程度受けるのか。28日に恒星像はかなりクリアーに見えたので期待は
 しているのだが。 実際に、成果が出ないと何ともいえない。
今後seeingと高度に恵まれたらどの程度の画像を撮れるか楽しみにしている。


7、その後
その後、いろいろな天体を観測し気づいたことを、あげてみます。
@ 月・・・・第一印象は、コントラストが良いということだった。以前C8を覗いた
        ときの感想と同じである。像がスッキリしているだけでなくコントラスト
       が良い。 満月近い月でも、影のない月面がクリアに写りました。

A 惑星・・・木星を撮影していて、ディスプレイ上の像が濃い(コントラストが良い)、
        惑星のエッジが、クリアーである。
         seeingが悪くても、それなりによく写る(seeingの影響を受けにくい)
         などである。

  内外像が対象なら(焦点が1点で集まれば)頷ける(当たり前)訳で ある。
 長い間悩んできたことが、一気に解決し、うれしい、今後 良い観 測ができると
 喜んでいる。 副鏡を7から8ミリ前に出したので、焦 点位置がかなり外に出て
 おり、バリチューブやいろいろなリングを使って接眼筒を伸ばしている。
 田阪さんには、いろいろ相談に乗っていただき、また迷惑もかけたが、紳士に
 対応していただき大変ありがたかく、感謝しております。 
                               数年目から、特にこの1年試行錯誤したことが、報われた気がしております。 

   2013年10月20日の木星
   雨上がりであったが、以外にseeingが良く、良い画像を撮ることができた。
   中央に小赤斑(BA)が見える。