初 夢 著者:ぶるくな10番!
年が明けた。
正月早々の仕事を終えて家路につく。
向こうの坂道を下ると夕日越しに、ボロアパートが見える。
明るい兆しの見えなかった去年にくらべ、今年こそは何かが変わってくれるのだろうか。
「おじちゃん、だあれ?」
錆びた手すりを握り、アパートの階段を上ろうとしたその時、このあたりでは見かけないおかっぱ頭の少女が後ろから声を投げてきた。
正月だからか、今では珍しい和服を着ている。
「ん、おじちゃんはそこの家の人だよ。君はこの辺の子じゃないね。
お嬢ちゃんは迷子になってしまったの?」
「うんん。私は迷子にならないよ。生まれた時からずっと一人だから。」
「はは、面白い子だね。寒いだろう、恐かったかい?こんなところに
一人でいて。外はもう暗いからお母さんが迎えにくるまで、おじちゃんの家にいよう。」
きっと混乱しているのだ。とにかく家にあげて色々聞いてみよう。話しが通じないくらいに、らちが開かなければ最後には警察に頼めばいいさ。
「このいろり変なかたち。」
「へぇ、いろりって言葉しってるの?そうか君の家は昔ながらの和風のつくりなんだね。うーん築100年とかのしっかりしたお家なんだ。これはコタツっていうものだよ。ほら脚を突っ込んでごらん。」
「火がついたー」
「ははは、電気さ。あったかいね。」
「へんないろり。」
「お嬢ちゃんはどっから来たの?イタズラして叱られて飛び出して来たのなら、おじちゃんも一緒に謝ってあげるよ。」
「いたずらはしたけど、しかられたわけじゃないよ。おうちがなくなっただけ。だからもう帰る場所がないの。」
「そう言わないで。きっと君のお母さん、心配してるよ。一緒に探してあげようか」
「ううん、いいの。みかん、むいて。」
「いいよ、食べるかい。」
「おじちゃんっていいひと?」
「さぁ。何の力も持たない普通の人さ。」
「ちからってなに?」
「そうだね。多くの人の心を動かす才能のことかな。」
「ふーん。おおくのひととちかくのひとってどっちが大事?」
「…・そう、近くの人が大事かな…。多くの人って顔が分からないものね。」
「おじちゃんはひとりなの?」
「そうだよ。嫁さん無し、子供無しの気楽な毎日。」
「おかあさんは?」
すっかり女の子のペースだ。
「おほん、こらこら、なんだかおじちゃんが迷子みたいじゃないか。君のことも教えてくれよ。」
「わたしは座敷わらし」
「座敷わらしって妖怪だよね。それも知ってるんだ。絵本でみたの?」
「ううん、みんながそう呼んでるから。なまえはないの。」
これは手に負えないかも知れない。警察を呼ぼうか。
「よんでも、つれていけないよ。わたし消えるもん。目にみえないよ。」
「へ、おじちゃん誰か呼ぶっていったかな。」
「いわないけど、ここでいった。」
おかっぱの少女は小さな胸をおさえながら言った。
「…・・」
「おじちゃん、お外でこれ拾ったよ。」
少女はボロボロになった年末ジャンボ宝くじを一枚差し出した。
「これは…」
「それでいっぱい小判みたいなのあたる。」
「これが当たり券なのかい?」
「うん。わたし、このおうち好き。おじちゃんも好き。だからあげる。」
それからしばらく経った。
あの宝くじは一等二億円のものだった。
座敷わらしを連れて引っ越そうと思ったが、このアパートが気にいっているということなので、改造していろりを作った。時々コタツに入っている姿も見かけるので、あれはあれで満更ではなさそうだ。
多くの人より近くの人のほうが大事。
座敷わらしに教えられた言葉が染みたので、久しぶりに実家に電話を入れると母はたいそう喜んだ。
当たったお金は畳の下に隠してある。私には使い道が思いつかないので、全額彼女のものと決めていた。
あいかわらず仕事も辞めていない。
座敷わらしは、私にもうすぐお嫁さんが来るというが、三人(?)どういう風に生活していけばいいのか、今から頭が痛い。
−おわり−
(2005.1.2)
|