リクリエイト 著者:ぶるくな10番!
会社をリストラされた。 24年間勤め続けた会社では、それは係長止まりであったけれど何もクビにされるほど仕事をしなかったわけではない。 そもそも何故今回のリストラ劇の煽りをくらったのかというと、親会社が私の勤める子会社を売りに出したところから始まる。 経営権を20億円で買い取った今度の社長は大手金融会社の部長クラス。 その会社の一プロジェクトで、我が社を立て直すことによる利益を充分に見込みありと試算したらしい。 新社長は歳も若く私と同じ40代だと言う。早々に管理職のクビのすげ替えが行われたというわけだ。 幹部クラスで充分だというのに、なにも係長まで解雇することはないだろう。 まったく酷い世の中だ。 今は有休消化にあてられていてもう出勤する必要はないのだが、大学受験を控える息子と中学に通う娘が居ては、会社を辞めさせられたと妻に打ち明けることさえできず、毎朝いつもと同じ時間に出社するふりをしている。 妻の手作り弁当も心なしか重たく感じられるというものだ。 「あなたもですか」 公園のベンチに力無くうなだれて腰を下ろしている私の横に、いつのまにか見知らぬサラリーマン風の中年男が座っていた。 「私は会社をリストラされてもう2年になるんですよ。」 「え、2年も!…それで生活はどうしているのですか?」 「宿無しですよ、宿無し。夜は寝袋で寝ています。」 「寝袋!そんな…」 「いやね、今のような秋は涼しくていいんですけどね。冬は凍えるように寒いし、夏は蒸して死にそうになる。かといって何かをかぶっていないと蚊にいいように血を吸われっぱなしになってしまってね。ははは、いやぁまったく最悪なんです。」 「いや、笑い事ではないですよ。奥さんやお子さんはどうしてるんですか。」 その質問に男の顔が一瞬曇ったかと思うと、わずかに語気を荒げて次のように言い放った。 「収入がないんですよ。そんな男が家庭を持てますか。ただの役立たずで用なしの中年男なんです。ゴミ同然です。リストラってやつは人の存在の全てを否定する行為なんです。社会の仕組みが私に死ねといってるんですよ。」 身につまされた。 「いやいや、そんなに悲観されてはいけません。きっと再就職できますよ。お互いがんばりましょう。」 何の説得力もない励ましであることは言いながらにして気づいていた。そして最後にポツリとつぶやいた言葉が私の胸に深く突き刺さった。 「みんな私のもとから去っていきました。」 重い沈黙を破ってそこから逃げ出すように立ち去ると、秋の風はもう冷たかった。明日職安へ行こう。もし明日が駄目でも明後日、明々後日と通い続けよう。もうそれしか自分には無いのだから。すべてを失う前に。
「ありがとう。はいこれ約束のお金。」 「へへ、どうも。」 「それにしても皮肉ね。リストラされた中年を立ち直らせるのが仕事なんて。」 「奥さん、これでも私は充分社会の役にたっていると思いますがね。人助けですよ。」 「ふん。それで、手ごたえはどうだったの。」 「いやぁ、効いていると思いますよ。特に最後のセリフ。」 「“みんな私のもとから去っていきました。”ってやつ?」 「はい、ちゃんと盗聴用のイヤホンで聞いてましたね。へへへ。ところで奥さん。」 「なぁに?」 「もし旦那がこのまま再就職できなかったとしたら、奥さんならどうします?」 「それを聞いてどうするつもり。」 「いやなに、こんな商売ですからね。今後のご参考までにと。ただそれだけです。」 「私は従順な女。」 「ほう。私のようなリクリエイターを雇うほどにですか。へへへ。」
<おわり>
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