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オーディオ倶楽部(お笑い編)
著者:ぶるくな10番!


[Re.10] ビックリマスダ(2004/02/03 09:56)> 削除キーって、どう使うの?
[Re.11] ぶるくな10番!(2004/02/03 16:54)> 削除ーっ!て叫びながら右の削除実行ボタンを押すのです。(嘘)
[Re.12] ビックリマスダ(2004/02/03 17:38)> うそをつくと古賀さんみたいになりますよ・・・

「よい音ですね」
「音だけではないね。このスピーカーの風格と品のあるたたずまいもまた見事」
「オーディオ機器も実に整然と並べられて、ケーブル類の引き回しも煩雑としたところがない」
「見た目もよい音の一部といったところですかな」
「見た目や音だけではないですよ。例えば高音がどうだとか、低音がどうだとかは全くどうでもいい。そこに音楽がある快感を最もよく
分からせてくれるシステムだと感じますね」
「いや、まったくです。素晴らしいという一語に尽きるね」
毎週土曜の午後からは《オーディオ倶楽部》のメンバーがその会員の誰かの家に集まっては、オーディオと音と音楽について共に語らい
あっていた。
「しかし…・」
メンバーの一人が口を開いた。
「あのぬいぐるみは何ですか?」
TANNOY オートグラフの左右のスピーカーの上に置かれていた、赤パンダと黒パンダのぬいぐるみを指差して言った。それまで黙っていたオーナーが、無表情のまま答える。
「それがスピーカーです」
一同はその発言に虚を突かれたように静まりかえった。そして静粛はやがてどよめきに変わった。
「何をいってるんですか、嘘をついてはいけませんよ古賀さん。第一アンプからあのパンダ達には、ケーブルすら繋がれていないじゃないですか!」
あまりの突拍子のない言葉にメンバーの誰かが、強い口調でオーナーに返した。
「嘘ではありません。嘘だと思うならもう一度音を鳴らしてみましょう」
ロス帰りの古賀は少し英語なまりの日本語で静かに答えた。イタリア製のソファからゆっくりと腰をあげると、プレイヤーの置かれてい たローズウッドの頑丈そうなラックに近づき、おもむろにMICROのアナログプレイヤーを回した。
第一音が飛び出すと、聞き耳を立てていた一同は「やはり」という表情に変わる。
「スピーカーユニットから音が聴こえて来てますよ。古賀さん」
「そんなはずはありません。私の耳にはあのパンダからの音しか聴こえませんよ。あなた達は耳がおかしいのです。私がそうだと言ったらそうなんですよ」
オーナーの様子がおかしい。
メンバーの一人が赤パンダと黒パンダをスピーカーから取り上げようとした。
「何をするんだ君!それを取ったら音が聴こえないだろう」
「それを試すために取るんですよ」
オーナーの意思にかまわずパンダのぬいぐるみを取り上げた。
「うわぁぁぁぁ」
奇声をあげて古賀が倒れこんだ。
「古賀さん!どうしたんです!大丈夫ですか」
メンバーが抱き起こそうとすると、朦朧とした顔つきの古賀は無意識にこうつぶやいていた。
「やっぱり、私の言うことは誰も信じないんだ…・」
衰弱して床にうつぶせに倒れ込んでいる古賀を残して、オーディオ倶楽部のメンバー達が一人、また一人とその部屋から姿を消していった。
オートグラフからは長渕剛の「ろくなもんじゃねぇ」がサビの部分に差し掛かり、洋風のリスニングルーム一杯に鳴り響いていた。

<おわり>