過ぎし記憶のSaGa


坂道を自転車をこいで駆け上がっていったあの夏の日。
アセルスの髪はまだ金髪で、人としての命を保っていたあの頃。
済んだ瞳の少年と出会った。
それが。
アセルス「小此木博士の息子さん?」
小此木博士とは、シュライクの郊外に研究室と自宅を持つ、世界でも有名な科学者だ。
そこの博士はまた本好きで、読みたい本をアセルスの本屋に注文をいつも
しているのだ。
彼女が配達に行くと、研究に少し疲れた顔で向かえてくれ、奥さんが坂道を登ってきて疲れた体に、
一時の安らぎとして、一杯の紅茶と少しのお菓子をくれる。
それが、アセルスには嬉しかった。
小此木烈斗に出会ったのは、三度目の配達の時だった。
アセルス「済みません、小此木博士、頼まれた本を・・・」
そう言ってドアを開けようとすると、中から凄い勢いで飛び出してくる影があった
のだ。
その影は当時のアセルスよりは小さく、まだ小さな子供のようだった。
アセルス「きゃっ!危ないじゃない!」
それから、小此木夫妻が慌てて出迎える。
博士「ああ、アセルス君か。申し訳無い、今のは私どもの息子でして・・・」
それが、アセルスと小此木烈斗、すなわち、レッドの出会いだった。

レッドは小さい頃から負けん気が強く、喧嘩ばかりで親の手を煩わせることも
屡在ったようだ。しかし、その瞳は純真で、当時から何かスケールの大きさを感じ
させるものが在った。
アセルス「烈斗君?」
最初、レッドはアセルスになつかなかったが、二回、三回と回数を重ねるようにし
てかれも彼女になついてくるようになった。
それは、レッドの本心を彼女が理解していたからに他ならない。
レッド「アセルス姉ちゃん、今日だって、またあいつに喧嘩売られて・・・」
アセルスはレッドが喧嘩をする理由を何処となく感じていた。
ああ、この子は寂しいのだ。
レッドが喧嘩を良くするようになったのは、妹ができてからだ。
今でこそ可愛がっている妹だが、子供心に、父親と母親がとられるのが悔しかったのだ。
アセルス「そうね、烈斗君は悪くないよ。」
アセルスはそんなレッドに姉として接した。
彼が妹に対して、いい兄でいられるように自分がレッドに対していい姉の手本を
見せなくては行けない・・・
そう思っていたのは最初だけで、何時しか、アセルスもレッドを弟として欲する
自分に気がついていた。
一人っ子で、親も死に別れている自分。
寂しいのは、同じなのだ。
アセルス「ねえ、烈斗君。」
夜に、アセルスはレッドと二人で夜空を眺めていた事が在る。
アセルス「星の数ほど人がいるけれど・・・でも、きっと、自分にとっての大切
     な人って、きっと何時か回り逢えるんだよね・・・」
レッド「うん・・・アセルス姉ちゃん・・・」
この時、レッドは何かいいたげな表情をしていたが、アセルスは合えて問わなかっ
た。
それが、今の関係を壊してしまいそうな言葉だったから。
そう、その時は、このまま姉弟としていられたら、永遠にいられたらいいのに。
そう、思っていただけだった、一人の弱い少女がいた・・・
それだけだった。
11/21/2001