自責のSaGa


グレイが見たものは、暗い部屋に一人でたたずんでいるヒトの姿だった。
暗闇の中でも映えるような鮮やかな緑色の髪。
決して染めたのではない・・・生まれつきなのかは定かではないにしろ、人工的
に生み出される色合いではない髪の色。
・・・自分と同じく。
アセルス「・・・誰っ!?」
モニカとは違う気配を察知し、アセルスがグレイの方に振り向く。
その瞳の色は、髪と同じ、深い緑色の瞳。
しかし、その緑色の瞳は、時々妙に金色に輝きを放っているようにも見えた。
アセルス「・・・男か・・・何の用?」
グレイ「ふっ・・・俺にも、何をしに来たのか分からない。」
素直な話である。
グレイは彼女の存在は元より、一体自分が何をすればいいのか全く聞いていなかっ
たのだから。
モニカ「取りあえず、なんか話してよ。」
モニカが小声でグレイに呟く。
グレイ「・・・お前、名前はナンだ?」
アセルス「アセルスだよ。」
グレイ「どうして、ここにいるんだ?」
アセルス「さあ。私にも分からない。成り行き・・・かな。」
モニカが後ろで肩をすくめている。
私にはこんなに話をしたことがないのに、という表情だ。
グレイ「じゃあ、アセルスといったか・・・お前は、何故ここにいるモニカとの
    接触を徹底的に避けるのだ?」
アセルス「・・・」
グレイはその問いに対する答えを、わずかにアセルスに見た気がした。
アセルス「女の人は・・・私に近寄っちゃいけないんだ。」
グレイ「ほう・・・どうしてだ?君も女じゃないのか?」
アセルス「私には性別はないの。・・・無くなった、と言えばいいのかな。」
グレイは段々とこの娘に興味を持ち始めた。
グレイ「性別が無くなった?」
アセルス「ねえ、貴方、綺麗なグレーの髪に、済んだ瞳だね・・・
     貴方のそれは、生まれつきでしょ?」
グレイが感知した事を彼女も感知しているようだった。
同類なのか、とグレイは一瞬逡巡する。
グレイ「君のも、俺と同じように見えるけどな。」
その答えを待っていたかのように、アセルスは笑い出した。
アセルス「あはは・・・でも、これは違う。私のは違う。
     これは戒め。私の自由と権利と・・・時間も、人間としての命もサガ
     も全てを永遠の闇の向こうに閉じ込めた封印の証なんだ。」
グレイにも、モニカにも、アセルスのいった事が把握し切れなかった。
アセルスはそれでも続ける。
アセルス「私は・・・不幸な事故で、妖魔の君オルロワージュの血を受けて、
     人間としての生を終えて・・・半人半妖として生き続けてる。
     私は人間に戻りたいのに・・・この体は、私を縛りつける。
     妖魔の君オルロワージュの血は、女性を魅了するもの。
     だから、その血が流れている私も、女性を虜化してしまうんだ・・・」
グレイ「・・・良く分からないが・・・君は人間ではない存在で、女性に対する
    猛烈なフェロモンを放つ体になってしまった、と言う事か?」
端的過ぎるが、あながち間違ってはいない結論だろう。
アセルス「ま、まあそう言う事だけど・・・」
この要約のし方はアセルスにとっても予想外だったらしく、ここまであっさりと
まとめられると自分としては難しく悩みすぎていると言う気がしなくも無い。
アセルス「フェロモンっていうか・・・フェロモンを強力にして、自我を失わせ
     るレベルのものなんだけれども・・・」
グレイ「うーん・・・でも、男にはきかないんだろ?」
アセルス「ん、ああ、それはそうだけど・・・」
グレイ「・・・ならいいや。こんな所でぼっとしてるより、俺と何処かに旅をし
    てみようか?」
モニカが後ろでビックリした表情を浮かべる。
モニカ「グレイ!?」
グレイは独特の価値観を持つ男だ。
彼の中で善悪の判断は自分の中でしかなく、正しいと判断したら梃でも利かない。
アセルス「えっ、でも・・・」
グレイ「なーに、モニカが大丈夫なように、一朝一夕で完全に虜にしちまうわけじ
    ゃ無いだろ。なら大丈夫だ!」
モニカ「でも、グレイ、この子はコルネリオの・・・」
グレイ「死んじまった奴の事はもうどうでもいい!
    それに・・・アセルス、お前も、自分も自分の体と付き合っていかなき
    ゃいけないなら・・・それに対する付き合い方も、覚えておかないと 
    な。」
そう言うグレイの瞳はなんだか力強くて、何処と無くアセルスは幼い日の自分を
思い出していた。
そう、アレはまだ本屋の娘だった頃の話・・・もう、十数年も前の話なのか・・・
11/21/2001