策略家のSaGa


コウメイは、エレンを拍手で迎えた。
コウメイ「いや、素晴らしいですね、あなたは。」
海賊がたむろしている酒場の中で、何処と無くインテリをにおわせるこの男の存在は
浮いているように思えるが、妙にそんな感は無い。
恐らく、自らの存在を適応させる能力にも秀でているのだろう。
エレン「あなたは?」
海賊に担がれて、エレンも随分酒を飲んでいる。
しかし、あまり酔った感じは無い。
コウメイ「私は、コウメイという一介の学者です。
     少し、あなたとお話したい事が・・・」
こちらへ、と何気なく酒場の外に誘導するコウメイ。エレンは、不審に思いながらもそれについていく。
エンリケも、その様子を見る。
学者風の男は何処かで見たことがあると思ったが・・・
エンリケ「とりあえず、着けてみるか・・・」

人気の無い事を確認してから、コウメイは口を開いた。
コウメイ「先程海賊の首領との話にも少し出ていたようですが、あなたは異邦人
     なんですってね。」
エレン「あ、うん、何だかそうみたいだと思う。
    見た事無い土地だし・・・まあ、過去にも異邦体験はあるし、別に驚く
    ことじゃないけどさ。」
コウメイ「ならば、先入観が無くてこちらも都合の良い事です。
     ・・・今、私の祖国アバロンは世界の中で孤立無援・・・そうです、
     全世界と戦争をしているのです。
     原因は、強国や大国との食い違いによるもの・・・」
もっとハッキリとした原因は考えられるが、この少女に話したところで理解は出来ないだろう。
世界情勢を知らないのだろうから。
コウメイ「この武装商船団もアバロンに対立していた集団でしたが・・・
     申し訳ありませんが、卑怯なのはわかっています。
     この者達に戦争を止めさせていただけないでしょうか?」
安直なお願い事だ。
無論これで通るとは思いはしなかったが、あくまでこれは伏線だ。
コウメイの中でそれぞれの彼女の対応に対してどのように口車に乗せるかの構想が着々と練られる。
そして、どうやら都合良く行ったようで、近くに大きな人気が現れる。
予想などしなくてもわかる。エンリケだろう。
しかし、コウメイの数々の問答パターンは次の一言で九割がた破棄された。
エレン「ねえ、あなたはこの海賊達に戦争から手を引かせたいの?それとも、
    一緒に戦って欲しいの?」
思ったよりも、いや、予想できないほどの鋭さだ。
彼のエレンを見た感じの、頭の中で構築された問答では、
この会話が出るのはもっとずっと後の話のはずだった。
世界情勢をまだ知らず、本質を見ぬけるはずが無い、そうコウメイは高をくくっていたのだ。
コウメイ「・・・予想外にキれる方のようですね・・・」
エレン「いや、だって普通はそう思わない?」
エレンの中では当たり前に導き出された回答だった。
しかし、彼女は知らない。
この世界の者達は、彼女の思考回路とは違うのだ。
そう・・・表面のことばかりに固執し、本質を見ようと市な居、中世的な考え方。
長らく戦争の渦中に飲まれた、人々の思考回路。
柔軟性の失われた思考。
コウメイも、それを知る由はない。
自分の世界のことしか知らない人は、それだけしか判断基準が無い。
コウメイ「・・・それは、あなたに任せます。」
長い問答のすえ意味を持つ事の出来るこの一言も、薄っぺらな一言にしか過ぎなくなっている。
エレン「とりあえず、エンリケとか他の海賊・・・そうね、あなたも何だか物知り
    っぽいから、私に世界のこととか色々教えてよ。」
コウメイ「いや、私は海賊に帰依する気持ちは・・・」
エレン「私にからんできたんでしょ?まあ、載りかかった船だから。
    んじゃ、エンリケ、行きましょ。」
物陰で探っていたエンリケは、コウメイを引っ張って、エレンと酒場に戻っていった。
09/20/2001