男気のSaGa


コウメイは、ただ二人の戦いを見つづけているだけだった。

エンリケ「おおおお!」
エレン「んんんんんん!」
エンリケは、既に相手が女である事を忘れている。
ただ純粋に闘争を楽しんでいるに過ぎない。
エレンも同じだ。自分の顔が殴られ腫れようとも、かまいやしない。
顔は女の命だと言う。しかし、それでも、命を捨てても戦いたい。
そんな姿勢こそが、一番美しい。
エレンの蹴りがエンリケの延髄を捕らえる。
エンリケ「ぐっ!」
お互い、しかし体力が無い。
勝負は決着の時を迎えようとしていた。
エンリケ「・・・そろそろ、決着を付けるか?」
エレン「そうね・・・お互い、もう体力も無いでしょう?」
海賊達は動けずにいた。
怪物のごとき力を持つ自分達の首領と互角に戦う少女。
海賊達はエンリケの力で統一された一枚岩ではない。しかし、エンリケの力は
強い男たちを目指す彼らにとって、一番の頼るべき物だったのだ。
それは、揺らぐ事が無い。
しかし・・・
海賊達の心に、一つの考えが生まれ始めていた。

勝負は一瞬で付いた。
エンリケ「・・・ふっ。」
膝を着いたのはエレン。
エンリケ「良い戦いだったな・・・」
しかし、倒れたのはエンリケ。
エレン「・・・あなた、久々に楽しい相手だったわ」
エンリケ「ははっ。同じだな・・・」
海賊達が首領の元へと駆け寄ってくる。
海賊「親分!」
エンリケ「うろたえるんじゃねぇ!」
エンリケは傷ついたと言えど、まだまだ海賊達に遅れを取るほどではない。
エンリケ「・・・お前、名前は?」
エンリケが無理に体を起こし、エレンに歩み寄る。
エレン「・・・エレン。エレン=カーソンよ。」
おもむろに、エンリケは懐からなにかを取り出す。
エンリケは少し躊躇い・・・
エンリケ「エレン・・・」
そして、次の一言。
エンリケ「惚れた。俺の嫁にならんか?」
コウメイも、びっくりである。


勝負は引き分けだった。
だから、どちらも要求する権利があり、断る権利もある。
エレン「・・・いきなり言われても・・・」
エンリケ「俺の嫁になれば、武装商船団を自由に動かせる事が条件だと言っても
     か?」
コウメイはここでふと思った。
エンリケは、このエレンと言う少女がアバロン側の差し出した使者もしくは刺客
だと思っているのだろう。その上での、要求だ。
エレン「それって・・・凄いこと?」
しかしエレンはこの世界情勢など全く預かり知らない異邦人である。
エレン「私、一応異邦人だから・・・」
苦しい言い訳だ。
エンリケ「異邦人・・・?」
エレンの瞳は嘘のかげりが無い。
恐らく、彼女は異邦人なのだろう。他の世界から来た、強大な力を持った異邦人。
エンリケの頭では、そう結論付けるのがたやすかった。
なぜなら、この世界の人間にしてはやけに戦い方が慣れすぎている。
人間との喧嘩ではなく、命の取り合いに。
動きも、どちらかと言えば獣のような存在でならされたものだ。訓練じゃない。
彼女は違う世界の人間だと考えもしなければ、それに、納得が出来ないのだ。
エンリケは笑い始めた。
海賊「お、親分・・・」
エンリケ「あはははははっ!エレン、お前は面白い女だよ、マジにな。
     俺は惚れた、マジに惚れた!」
海賊達は心配げな表情をするが、内心では喜んだ。
彼らの考えていた事こそ、このことだったのだ。
首領と、この少女が商船団を率いれば・・・
エレン「うーん・・・結婚、かぁ・・・
    ごめんなさい、やっぱり私には出来ないわ。」
エンリケはしかし全く気を害した様子は無い。
エンリケ「結婚はもう良い!そこも気に入った!この俺を足蹴にする女なんて
     この世にお前しかいないからな!
     だけどよ・・・異邦人だって言ったろ?じゃあ、この世界の事は何にも
     知らんわけだ!」
エレン「うん?ええ、まあ・・・」
エンリケ「じゃあ、結婚はしなくて良いから俺達武装商船団の女神様になってく
     れ!俺達は自分の意思で戦うし、貿易をする。形上ではカンバーランド
     と組してアバロンと対立しちゃいるが、アレはアバロンがちっとばかり
     俺らに喧嘩を吹っかけただけで、暴れたいだけの理由だ。
     俺らに命令する物なんかいないんだ。
     だけどよ、首領の俺が決めた!
     武装商船団はお前に着いていく!是は、お前さんの意思に関係ねぇ!
     惚れた男の男気ってヤツよ!」
エンリケが他の海賊達に賛同を求める。
海賊達は、それに声援で堪える。
エレン「え、あ?」
エンリケ「なぁに、聞きたいことがあれば俺達が何でも聞いてやるし、行きたい所
     があったら俺らを使ってくれれば良い。
     それだけさ!」
さぁ、今日はパーティーだ、そうエンリケの号令と共に、又酒場でドンチャン騒ぎ
が始まる。
エレン「・・・まあ、いっか。」
そして、コウメイ。
08/11/2001