対面のSaGa


エンリケ「この騒ぎの主犯は誰だ?」
海賊の首領らしき男は、別段大男な訳でもなく、狡賢そうなタイプの表情をしているわけでもなかった。
どちらかと言えば好青年。まっとうな商船団のキャプテンと言うべきか。
しかし、それでも武装商船団のトップ、荒れくれ者をすべる身だ。
海賊「あ、あの女が・・・」
エレンにメタメタにやられた男の一人がすがるように首領の元へ這い寄る。
首領はそれを一瞥し、踏んだ。
エンリケ「仮にも海の男たちが、あんな少女一人に良いようにやられるなどとは。
     恥ずかしくないのか?その口が!」
間違い無い、騒ぎの元はこいつらだ。首領は一瞬にして理解した。
エレン「あなたが、首領さん?」
海賊が指差した少女が、ふてぶてしく目を向けている。
しかしその眼光は確かになにかを感じさせる。超人的、ある意味では魔法的な強さを秘めたもの。
見た目とは全く別格の、ある意味では超越した力。
・・・自分と、同じように。
海賊達は体を鍛えて強くなる。しかし、この少女や自分は違う。
恐らく、常人とはもって生まれた物が違うのだ。
エンリケ「ふっ・・・」
エンリケは無造作に背中から碇を取り出す。
普通の人間のサイズはあろうかという超巨大な物だ。それを、片手でいとたやすく
操って見せる。実は、軽石で出来できているかのように。
エレン「あたしとやるの?」
エンリケ「海賊が、弱いままだと思われるのは心外だからな・・・」
エンリケの碇が、空を切る音を立てる。
エレン「速い!」
思ったよりも余裕が無いかわし方になってしまった。恐らく、常人ならば、いや、
常人で無くとも今の一撃で胴体は酒場の端の方へ吹っ飛んでいただろう。
エンリケ「避けたか!」
横なぎの後は、まるで重力に逆らうような動きで唐竹割。
エレンはその一撃を手で受け流す。
エンリケ「なんと!?」
エレン「こんなでかい獲物振り回してるんじゃ、危ないじゃない!」
一瞬の早業。力を受け流した個所に彼女自身の力を加え、ニ連激で一瞬にして
碇の支点を破壊する。
エンリケ「おっ!?」
是には多少びっくりしたか、エンリケが驚きの声を現す。
しかし、彼の技は碇を振り回すことだけではない。
エンリケ「この碇を振り回す力が、俺の最大の武器よ!」
廻し蹴り。その一撃は、鋭さでも重さでも碇の一撃を上回っていた。
エレン「っ!」
崩れかけた態勢から、反撃。
エンリケ「うぉ!?」
しかし、エンリケの方が態勢が整っていた。
エンリケ「おりゃ!」
つい、全力でエレンのわき腹にハンマーのような拳をぶつける。
エレン「きゃ・・・!」
エレンの体がすっ飛ぶ。
エンリケ「・・・ふぅ・・・」
手加減していない。恐らく、エレンは瞬時に絶命しているだろう。
殺すには惜しいほどの美貌と強さだったのに、とエンリケは心の中でため息をついた。
それが、油断。
エンリケ「・・・!?」
空白があり、気が付くと自分の体が宙を舞っている。
エンリケ「ぐっ!!」
先ほどまで自分が立っていた位置に、さっき吹っ飛んだはずの少女が立っている。
エレン「ったぁ・・・あなた、凄く強いわ。海の男って者を見なおさなきゃね?」
その顔が笑っている。
さっきの一撃は堪えたようだが、彼女にとっては痛痒を感じる程度の物でしかなかったらしい。
エンリケ「ふっ・・・面白い!」
超人的な力を誰の前にも出しきれなかった自分が、初めて本気になれる相手。
エンリケもまた、笑う。
08/11/2001