ウブのSaGa


男「やっと追いついたよ。」
男が店から出たエレンに追いついたのは、そろそろ日が傾いてきた頃だった。
エレンは人ごみを抜け、マンハッタン郊外の川岸の土手公園に一人佇んでいた。
エレン「さっきの人ですか?」
振りかえった彼女は、目が赤い。
恐らく、相当泣きはらしたのだろう。
エレン「どうして、私を追ってきたんです?」
少し落ちついたか、ある程度の感情が言葉には戻っている。
拒絶は感じられない。
男「心配だから、で足りるかい?」
エレン「・・・ありがとうございます。」
軽く頭を下げると、エレンは又黙ってしまう。
男は、何気なく自己紹介をしてしまう。
男「俺はロスター・・・いや、ヒューズの方がいいかな。
  一応、IRPOに勤めてるんだけどな・・・警察には見えないだろ?」
エレン「警察・・・?」
ヒューズ「やっぱりなぁ。同僚にもよく言われるよ、お前は警察の面汚しだってな
     !俺が一番手柄立ててるのになぁ。」
ふん、と口を尖らせて見せる。
ヒューズ「所で、お姫様の名前はさっき店であの無神経男が言ってたけど・・・」
エレン「ええ、私はエレンという名前なんです。」
お姫様、と言う似つかわしくない表現に、少々当惑したが。
エレン「でも、私お姫様なんて・・・
    レッドにはよくがさつだ、なんて言われてたし、生まれたところでも
    私が一番男の子達と比べても強くて、おしとやかな感じなんか無いし
    ・・・」
おしゃれなんて、最近までは考えた事もなかった、と付け加えた。
ヒューズは少し考えたそぶりを見せたが、にやっ、と笑って斬り返した。
ヒューズ「勇ましいお姫様だな。でも、おしとやかな女のコなんて何処にでも
     いるものさ。君みたいなお姫様、俺の自慢の女のコファイルにも
     載ってはいないな。」
ヒューズがどうしてそこまで自分をお姫様と呼ぶのか、エレンには真意を量り兼ねた。
エレン「どうして・・・」
ヒューズ「お姫様なんてだから呼ぶの?って言いたいんだろ?」
図星だ。
ヒューズ「それはな、恋がウブで不器用だからさ。」
少し、真剣な顔だった。
エレン「・・・」
普段ならカチン、と来て言い返すところだったが、今はそんな事はしない。
確かに、そうだからだ。自分は恋をした事が無い。いや、した事が無かった。
ヒューズ「まあ、でも最初はみんなそんなものさ。
     経験を重ねればいいだけの話さ・・・」
ヒューズの目がすこし悲しみを帯びる。
ああ、この人も苦しい恋をしているのか、とエレンは気が付いてしまった。
それと同時に、このヒューズと言う男に興味が沸いた。
エレン「ねえ、ヒューズさん・・・」
ヒューズ「なんだい?」
驚く事を、エレンは口走っていた。
エレン「私にも、あなたの職場を体験させてもらえないでしょうか?」

そして、その二人の影を見る一つの影。
07/14/2001