痛みのSaGa


男「お嬢さん、大丈夫かな。」
エレンが美人だとわかると、男はすぐさま表情を切り替えた。
レッド「邪魔だ、おっさん!」
レッドはその男を振り払い、エレンのそばに駆け寄る。
レッド「エレン、大丈夫か?」
レッドがエレンの手を取ろうとすると、エレンは猛烈な勢いでその手をはじいた。
エレン「・・・気安くさわんないでよ・・・」
声に、力がない。
エレン「あたしが、馬鹿だったんだね・・・」
レッドにはエレンが口走っている言葉の意味がわからなかった。
エレンが、顔を上げる。レッドと、その後ろにいるユリアの顔が見える。
ユリアは綺麗な黒髪で、綺麗な、少し生意気そうだが上品な顔立ちをしていた。
自分とは、少しどころか違いすぎる。
これならレッドも好きになるわけだ。
レッド「大丈夫か、頭でも打ったのか?」
エレンの焦点は自分にあっていない。
レッドは不安になっていた。
エレン「・・・頭なんて打ってないよ。でも、違うところは傷ついてるかもね。」
淡々と言葉がつむぎ出される。
レッド「なら、手当てを・・・」
もう一度、エレンは手を払う。
レッド「何をッ・・・!?」
少しムッとした表情を浮かべる。
エレンは、対照的に表情に生気がない。
エレン「・・・レッドは、そこにいる可愛い娘の心配だけしてればいいじゃない
    のよ・・・」
レッド「お前、何を言って・・・」
エレン「そうだよね、アンタがあたしなんかの心配するわけないもん。
    きっと、その娘が見てるから、私なんかの心配してるフリしてるんだよね
    ・・・」
レッドの怒りは、早くも頂点に達した。
レッド「・・・あーあー。そうだよ。お前なんかがさつな女、心配して損だ。
    そうやって俺をからかうのが楽しいのか?」
言ってはいけない一言だったことに気が付かなかったのは、本人だけだった。
エレン「・・・そうだね。私、がさつだもんね。」
今までの様子とは異なり、すっと立ちあがる。
エレン「じゃあね、レッド。バイバイ。」
痛々しいまでの笑顔で、そう言ってエレンは店を出る。
暫らく、沈黙が続く。
レッド「・・・ほら、やっぱりな、あいつは何時も俺を・・・」
バキッ、と轟音が店中に轟く。それと共に、レッドの体が数メートル、飛ぶ。
レッド「いてぇじゃねぇか!」
殴ったのは、さっきテーブルをエレンにひっくり返された男。
男「いてぇだと?ガキが、ホントに一番『いてぇ』のは誰かわかりもしねぇ
  クセに、いきがってんじゃねぇよ!」
一言男はレッドに怒鳴り、走って店を出る。
レッド「何なんだよ、一体・・・」
よろめきながら立ちあがると、目の前には今までに見たこともないような 恐ろしい表情でレッドを睨んでいるユリアがいた。
デートをすっぽかしても、大じにしているものを無くしても、 見せた事の無いような表情だった。
今度は、乾いた音が一つ。
ユリア「サイテー。」
そして、ユリアも去っていく。
レッドは暫らくの間惚けていたが、急に二人に打たれた個所と、もう一箇所、
殴られていないはずの個所が、耐え難い痛みを発する。
レッド「なんなんだよ、一体・・・」
07/14/2001