謁見のSaGa


エレノア「・・・カッコイイ・・・」
超が3つついても足りないほどの男好きのエレノアでなくとも、 誰もがそう思わざるをえないほどの気品と美貌を称えている、 ローザリアに君臨する皇太子、ナイトハルト。身に纏った漆黒の鎧から、 人々は彼の事をこう呼んだ。
『ブラック・プリンス』と。
ハルト「・・・面を上げよ。」
声も、まるで楽器を奏でたかのような、人の物とは思えないほどの美麗さ、荘厳さ
の両面を持ち合わせている。
ハルト「君達が、兵士長のお墨付のもの達か?」
ナイトハルトは彼らの顔を見まわしたが、女ばかり、いずれもこの近隣で見た事
の無いような美女ばかりではあれ、その実力を疑わざるをえないだろう。
ハルト「・・・その男、彼はそのように強いのか?」
そのように、と言うのは女4人を守れるような強さなのか、と言う事だ。
グスタフ「・・・」
グスタフは何も言おうとしない。
彼も王族に生まれたものだ。これがどう言った意味を示しているかは分かる。
ハルト「・・・自信があるとでも言うのか?」
正確には、自分が守る必要がある女など誰もいないのだが。
取り敢えず、庇い庇われる関係であるのは確かだ。
ハルト「・・・まあ、いいだろう。兵士長のお墨付だ。
    諸君らに期待する。」
とはいえ、ナイトハルトの心境は複雑なものであった。
やはり、実力を見ない事では・・・
ハルト「・・・やはり駄目だ!私自らが諸君らの実力を確かめないと気が済まん!
    私は皇太子であると同時に一介の武人!
    私の剣の稽古も兼ねて、誰か立ち会ってもらおう!」
限界だった。
自分は、これからこの者達に恐ろしい依頼をしようとしているのだ。
半端な腕で、この美しき女性たちを危険な目には遭わせたくない。
兵士長「へ、陛下・・・」
ハルト「兵士長!貴様の目が耄碌しているかどうか、それともやはり正しいのか、
    この私自らが確かめる!」
この時、ネメシス以外の五人は、心中で一つの事だけを思っていた。
(どうか、ネメシスとはやりませんように・・・)
願いは通じた。
ハルト「では、そこのショートヘアーの女!お前に付き合ってもらう!」
アニー「・・・あたし?」
ハルト「そうだ。不服か?」
アニー「・・・陛下、それなりに本気で立ち会ってもよろしいですか?」
ハルト「当然だ。それとも、全力を出さずに私に勝てるとでも思っているのか?」
アニーの瞳が炎を宿す。
アニー「それじゃあ、遠慮無く行かせてもらうわよ・・・」
ふふふっ・・・と笑みをもらすアニーの横顔を見て、シフは皇太子陛下の身の安全
を何よりも願わずにはいられなかった。

アニー「はぁ!」
鋭い一閃が、レオンハルトの頬を掠める。
ハルト「くっ・・・っ!」
正直、アニーの踏みこむ瞬間の目を見なければ今の一撃で勝負はついていた。
アレは、只の女性の発する目の光とは違う。
百戦錬磨の戦士ですら、あの境地に辿り着くのは果たしてどれほどの死線をくぐり
抜けたものであるのか。
ナイトハルトには一瞬でそれが感じられた。
ハルト(ばかなっ!この私が押されているだと!?)
必死に受けるのが精一杯の状態である。
とんでもなかった。全力を出さなければ行けないのは自分の方だ。
稽古どころではない。これは既に勝負なのだ。
アニー「皇太子さん、散々町で聞かされた武勇伝はそんなものなの?」
しかも、アニーにはまだまだ余裕がある。
更に、鋭い踏みこみ。
アニー「とどめっ!」
全身の瞬発力でナイトハルトはその一撃から身をかわす。
アニー「ちっ・・・」
そして、ナイトハルトは距離をとり、一息ついて漆黒の鎧を脱ぎ始める。
アニー「どうした?命綱を自ら捨てるのか?」
ハルト「馬鹿を言うな。お前の一撃ならこの鎧などあっても役に立たん。
    それに、重い分だけ邪魔になるしな。」
アニー「そうかい・・・負けた時のいいわけにでもするつもりが、出来なく
    なるだけだよっ!」
ハルト「何を・・・俺は、あくまで勝つつもりさ・・・」
空気が張り詰めていく。
兵士長「陛下が・・・陛下の口調がかわった・・・」
私から、俺へ。
戦闘本能が、剥き出しになった状態になる。
お互いに、防具は皆無、条件は互角。
じりじりと、互いの距離がちぢまっていく。
空気が、ひり付く。
剣が放たれたのは、同時。
アニー「ハッ!」
ハルト「ヌゥ!」
音にならない衝撃が、辺りに伝わる。
兵士長「勝負は・・・!?」
静止したままの二人。
グスタフが、おもむろに空を指さす。
キラリ、と光を反射するそれが、地面に突き刺さる。
ネメシス「剣が・・・」
折れた剣の先が、地に突き刺さっている。
折れていたのは・・・
アニー「あたしのほうか・・・」
アニーが動きを取り戻す。
彼女の手にしていた剣は、半ばにして折られていた。
アニー「只のぼんぼんの皇太子に出来る一閃じゃないね、今のは。油断していた
    のは、あたしのほうかな・・・」
あたしの負けだよ、とアニーは肩をすぼめる。
ハルト「馬鹿を言え・・・」
青ざめたような皇太子の言葉が、彼女の背後に返る。
ハルト「私の負けだ・・・」
彼は、手にしていた剣を空にほおり投げた。
兵士長「こっ、これは・・・!!!」
ナイトハルトの手にしていた剣には、打ち合ったのだろう個所から全体隅々まで
ヒビが入っていた。
2度と修復は不可能だろう。
ダメージ自体は、こちらの剣の方が大きい。
それに加え・・・
兵士長「伝説の合金、ガーラルで作られた世界に現存する数少ないこの剣を、
    ここまで破壊するとは・・・」
出来ていた素材が違った。
神々が作ったとされる伝説の鉱物ガーラルと、アニーの手にしていた剣とは
出来ている素材が違っていたのだ。
アニー「・・・じゃあ、引き分けね・・・
    まあ、そっちが伝説の鉱物使ってたんだったら、あたしは健闘したのか
    な?
    こっちの剣もかなりのものだったんだけどね・・・」
アニーの使っていた剣はとはいえ、彼女の所持している剣の中で最もすぐれた
ルーンソードという魔法で鍛えられた鉱物をつかっていた剣だ。
強度的にはガーラルにおとりはするが、他のなまくらとはワケが違う。
ハルト「・・・君らの実力は十分に分かった。
    そなたらなら、きっとかの頼み事を解決してくれるだろう。」
07/07/2001