僕のSaGa


白いフードの男、トラの戦闘力は圧倒的だった。
ミリアム「なによ、こいつっ・・・!」
三人の中では最も戦闘慣れしている彼女ですら、全く問題にならない、
目に見えた戦力差。
何人いても、同じ事だ。
レッド「ミリアムさん!」
トラの爪が一閃したかと思うと、赤い鮮血がぴっ、と吹く。
ミリアム「大丈夫、かすっただけ・・・」
傷はかすっただけだが、これはミリアムが避けたからではない。
向こうが、意図的に外したのだ。
理由はわかっている。本気を出す相手ではないことがわかった以上、
遊んで、なぶり殺すつもりなのだ。
トラ「・・・獣は、狩りを楽しむのだ・・・」
今度はリュート目掛けて突進する。
レッド「アブねぇ!」
レッドがリュートの身体をタックルではじき飛ばし、右手に深く傷を負う。
これは、骨まで達したかも知れない。
当分、右手は使い物にならない。
レッド「これまでか・・・」
何時の間にやらミリアムもやられ、僅かなうめき声しか出せる状況では
無くなっている。
レッド「くそっ・・・!」
トラ「では、そろそろ死ぬか・・・」
トラの爪が真っ直ぐにレッドの脳天を突き破ろうとするのを防いだのは、
赤い光だった。
トラ「なにやつっ!」
ヌサカン「こんな所にでたか、悪神の僕・・・」
白衣姿のヌサカーンの右手には、赤い光が小手のようにまとわりつき、
あの鋭いトラの爪をがっちりと受け止めている。
エレン「レッド!」
レッド「エレンか!?」
レッドは身を返し、ヌサカーンとトラの力比べの最中にその場から
一時離脱した。
レッド「エレン、もしかして、このルーンを・・・」
エレン「ええ。でも、やっぱりレッドもここに来たのよね。思った通り。
    きっと、あたし達・・・」
エレンが少し頬を赤らめて恥ずかしそうに言おうとする台詞を、
レッドの声が止める。
レッド「それよりも、大変なんだ!さっき知り合った女魔術士がいる
    んだけどな、あの化け物にやられて・・・」
はっ、とレッドはトラの方へ向き直る。
レッド「嘘だろ、オイ・・・」
さっきまで自分たちが全く子供扱いだった化け物相手に、白衣の男は
互角、それ以上に渡り合っている。
いつの間にか手にしている赤い光の剣は、実体のなきがごとし白いローブ
を易々と切り裂き、小手は重い一撃を簡単に受け流す。
トラ「貴様・・・ただの人間ではないな・・・もしや、上級妖魔か!」
人間と言うより、むしろ猛獣の猛り声を発し、トラは執拗にヌサカーン
に攻撃をしかける。
ヌサカン「私は、ただの医者さ・・・」
トラ「ぬううっ!」
徐々に、形勢はヌサカーンがリードするようになる。
その間、エレンとレッドとリュートはミリアムの元へ駆け寄る。
彼女は、深い傷こそ無かったものの、全身に夥しいほどの裂傷をうけ、
出血はかなり多かった。
エレン「薬草を・・・!」
ヌサカーンからいくらかもらった薬草で、エレンはミリアムの手当をする。
エレン「・・・まだ、大丈夫なようね・・・」
レッド「死にはしないのか?」
エレン「恐らくは。ヌサカーン先生に、後で看てもらわないと・・・」
そのヌサカーンの方は、大詰めに来ていた。
ヌサカン「神の僕が、こんな下界で何をしている?」
ヌサカーンが剣を振るうたび、トラの力は徐々に弱まっていく。
トラ「くっ、神の意志に反するものの力か・・・本体でなくては、
   分が悪すぎる・・・っ!」
ヌサカン「こたえろっ!」
より気合いの込められた一撃は、受けようとしたトラの爪ごと叩ききっていた。
最早、勝敗はついた。
ヌサカン「私は、神に喧嘩を売るつもりはない・・・が、そちらから売ら
     れた喧嘩は、買わずにはいられんな・・・」
トラ「オルロワージュとヴァジュイールと言ったか、あの神に逆らう
   愚か者達を統べるものは・・・」
ヌサカン「ふっ、生憎と、私はそのどちらにも興味はない。」
トラ「では、貴様はっ・・・あの二人に匹敵する能力が・・・!?」
ヌサカン「おしゃべりは終わりだ。私を殺したいなら、今度は本体
     で来るのだな。」
トラ「・・・覚えておけ、貴様は・・・この俺が、絶対に殺してやるっ!」
シュッ、とトラはまた、虚空に消えていった。
ヌサカン「・・・何者も、運命には逆らえない、か。」
02/15/2001