仇のSaGa


レッド「ブラッククロスめ!」
クーロンでの喧嘩に巻き込まれたレッドは、その中に見忘れようもない、
あの憎い組織の戦闘員を見た。
偉大な学者でもあった、父を殺した、あの組織、ブラッククロス。
レッドのその声に向こうも反応したか、彼らはすぐに背を向け、一目散に
走り逃げた。
レッド「逃がすかよっ・・・!」
辺りのちんぴらを一人なぎ倒し、レッドはその戦闘服姿の男達を
追おうとした。
が、その身体を何かの強い力が引き留める。
レッド「なにしやがっ・・・!?」
強引に振り払おうとしたその力は、若い女のものだった。
女「今、あれを追ってはダメ。」
女は強い意志を秘めた瞳で、レッドを睨んだ。
レッドは気迫では気圧されなかったものの、彼女の瞳は、何かしらの
不思議な力をはらんでいるようで、彼の怒りは徐々に薄れていった。
レッド「・・・アンタ、一体何者だ?」
女「あたい?あたしは・・・ミリアムだよ。まあ、ちょっと訳ありでね、
  こんなとこにいるわけさ。」
ミリアムと名乗った女の格好は、レッドの見慣れないものだった。
強いて言えばマジックキングダムの学生達が着るようなローブに似て
いたが、それとは違う、もっと別の形態の――
レッド「なあ、もしかしてアンタ、別な世界から来たんじゃないの?」
レッドのその言葉に、ミリアムは素直に驚きを見せた。
ミリアム「あら。どうしてわかったんだい?」
レッド「だってよ、俺の知り合いにもう一人、なんか外れてる女が
    いるからな・・・」
そう言えば、エレノア――
知り合ってそれほど時間が経っていたわけではないが、あの女に通じる
雰囲気がある。
着ているものもこの世界のものとは少し違う。
何より、オーラが違った。
とはいえ、彼女もエレノアも別な世界のようだったが・・・
ミリアム「ところで、アンタ、あの連中を追ってどうするつもりだったの
     よ?今のアンタじゃ、一人でつっこんでって死ぬのがオチよ。」
レッド「・・・俺の、親父の仇さ・・・」
それは不味いことを聞いたわ、とミリアムは渋った顔を少し見せたが、
彼女は元々あか抜けた性格なのだろう、すぐに笑い出した。
ミリアム「ああ、親父の仇ね、はいはい。でもね、少年。
     あいつらは強大だし、何より汚い。正攻法で、しかもたった
     一人で立ち向かおうなんてのが馬鹿げてるのよ。」
レッド「・・・何故、アンタがそういえる?」
ミリアム「ふふ、実はね、あたいもあいつらとどんぱちを先日かましてね。
     四天王とかいうののベルヴァってのは何とか倒せたけど、
     何だっけ、あのメタリックな・・・機械に半殺しにされてね。
     命からがら逃げてきたって訳。
     とはいえ、ベルヴァってのもまだ生きてるみたいだし。」
冗談じゃねぇ。
レッドは思った。
シュウザーは、四天王の一人で親父の仇だ。
でも、今の俺では、まだまだ歯が立たないだろう。冷静に判断すると。
しかし、この女は。
一人で、四天王と戦ったというのだ。
しかも、互角以上に。
レッド「・・・信じられねぇな・・・」
ミリアム「あら、そ。ま、あれはあたいとしても奇跡的な話だったんだけど
     さ、ね。たまたま不意打ちが効いて、あたいは運が良かっただけ
     さ。元々は死んだっておかしくなかった。」
レッド「そうか・・・では、じゃあ何でアンタは奴らとやったんだ?」
ミリアムの目が細まる。
ミリアム「あいつらが、元の世界に戻れる方法を知ってるって言うからね、
     ちょいと基地に潜り込んだのさ。」
レッド「一人でか?」
ミリアム「ああ、そう。だけど、全然ダメだった。
     途中、小此木とか言うおばさんと可愛い子供に会ったけど、
     彼女たち、人質なんだってね。詳しい話は知らないけど・・・」
ミリアムがそう言った途端、レッドの瞳に炎が宿る。
レッド「なんだとっ!?」
ミリアムの胸ぐらは捕まれ、息が苦しくなる。
ミリアム「は、はなしなよ・・・げほげほっ、あ、あたいが・・・」
は、とレッドは手を離す。
ミリアム「はぁはぁ・・・ああ、読めたよ。
     アンタの家族ね、もしかしてその人達って。
     じゃ、あの人達はアンタが出ていかない限り安全よ。
     そのための人質なんだわ。」
レッド「どうして断言できる?」
ミリアム「だって、奥さんの方、首領にかなり好かれてるらしいから。
     人質って言うより、あれじゃあ、略奪愛ね。」
レッドの顔から気が抜けていく。
レッド「なんだっ・・・てぇ・・・?」
母と妹が生きていることは嬉しかったが、ブラッククロス首領には腹が
立つ。
微妙にミックスされた感情は、レッドから緊張を奪ってしまったのだ。
レッド「・・・でも、お袋は生きてる・・・」
ミリアム「だから、焦らないことだね。まだまだ力不足のアンタじゃ、
     親子共々殺されるのがオチ。
     機会は今だけじゃないよ。」
レッド「・・・そうだな・・・」
レッドは気持ちの整理が付いたのか、力を取り戻し、立ち上がった。
レッド「ありがとな、ミリアムさん。おかげで元気が出たよ。」
ミリアム「そうかい。なら、あたいも嬉しいね。
     ところで、あんた、旅のものだろう?
     あたい、正直一人には寂しさを募らせてたんだ。
     連れてってくれないかい?」
レッドは即答した。
レッド「ああ、アンタにはまだまだ教わることが多そうだし、戦力的にも
    頼もしい限りだからな。
    他にもつれがいるけど・・・まあ、そのうち・・・?」
レッドは、急にエレンのことが気になった。
そう言えば、彼女の姿がない。
というより、あれほど目立つエレンが、全くその気配がない。
リュートは、その辺で下手な歌を唱っているのにすぐ気が付けるのに。
レッド「エレン?」
突然何かの悪寒が走り、彼は走り出した。
ミリアム「ああ、待ってよ!突然なにをしたんだい!」
気分良さそうなリュートの首根っこを掴み、レッドは胸騒ぎのする方へと
真っ直ぐに足を向けた。
ミリアムもそれに続く。
02/12/2001