器のSaGa


エレノアが異変に気がついたのは、器を持ち始めてから一週間ほど
後のことであった。
エレノア「ねえ、最近生徒達の様子がおかしいのよ・・・」
男「みんな勉学に忙しいんでしょう?」
エレノア「いや、なんか、目に生気が灯ってなくて・・・」
講義をしてるときに気がつく、あのうつろな生徒達の目。
アレは、多分、生気が抜かれている証拠。
しかし、その時はエレノアには手にした器がその原因であるとは
推測できなかったのだ・・・
エレノア「あなた、何か隠してない?」
男「いえ?気にしすぎですよ。」
エレノア「だといいけど・・・」

それが決定的になったのは、それから3日後。
突然、一人の生徒が、魂を失ったかのように倒れ、その身は灰と化した。
あまりに突然すぎる出来事・・・
エレノア「・・・!?」
そして、異様な気の盛り上がり。
これに感じるアニマは・・・人の生命のアニマ。
肉体を失ったアニマは天に帰るはず。しかし・・・
何者かが、「喰って」いた。
それは・・・
エレノア「あれっ・・・!!」
器に、目を向ける。
その瞬間、また一人の生徒がアニマを失う。
しかし、今度は、見えた。
卵の形をした器が、そのアニマを「喰う」様子が・・・
エレノア「・・・これは・・・」
そして感じる。
卵の器が、クヴェルとしての力を持ちつつあることに・・・
エレノア「破壊しなくてはっ!」
男「それはいけませんよ。エレノアさん」
いつの間にか、男がいた。
いつもと同じくひょうひょうとした笑み。しかし、眼光は冷たく、
鋭く光っていた。
エレノア「あなた・・・こんなことして、どうするつもりだったの!?」
男「わかりません?これは、人間が神に近づく第一歩なのですよ?」
エレノア「何を馬鹿なことを・・・」
男「それを、見せてあげましょう・・・」
男は静かに器の方へと歩み寄り、それを手にする。
男「食らえ、この者達のアニマの全てを!!」
いろいろな色のアニマが、その瞬間にその空間に満ちた。
全ては、人のアニマ。
男「ははははっっっっっっはっはははは!!!」
エレノアは、一歩も動けなかった。
直感だけが働く。
この男は、生かしておいてはいけない・・・
男「エレノアさん!見て下さいよ、この輝きを!!」
エレノア「・・・私には、輝きなんて見えない。」
男「わからないのですか?あなたはこの神への一歩を僕と共に
  歩みだしたのですよ!!そう!一緒に!もう逃れられない!」
もう、逃れられない。
気がつかなかったとはいえ、こうなったのはエレノアの責任だ。
このままでは・・・
では、せめて。
エレノア「わかったわ・・・」
男「おお!では、この手を僕と取り合い、そしてこの輝きをその胸の仲へ・・・」
エレノア「・・・」
男の手をエレノアが掴んだ瞬間・・・
ボッ。
一瞬にして、男を内面から燃やし尽くす。
もう、この男を殺すしか・・・
しかし、不気味な卵形のクヴェルは残った。
人間が作り出したものの・・・
まだ、未完成ではあったが。
エレノア「・・・」
エレノアは、ただその場を逃げ去るしかできなかった・・・

彼女は知らなかった。
遙太古に、同様にして生まれた悪魔のクヴェル、「エッグ」と言うものが
存在し、また、それと同じものがこの世に生まれたという事に・・・
06/09/2000