(私は、逃げない・・・)
またあの夢を見る。
もういい加減に忘れかけていた夢。それは悪夢。
現実としてあったことが、悪夢としてなり得たこと。
エレノア「・・・また・・・」
シーツは汗で濡れている。
今夜も、眠れそうになかった。
ここのところ、ずっと。
アニーとライザは、隣で静かに寝息を立てているというのに。
自分は、どうして・・・
エレノア「あの男の夢が・・・もう、もう忘れていたのに・・・」
過去に話は遡る。
エレノアが数年前、テルムで学者として講師をしていたとき。
あの男と会った。
その男は自分は遙か彼方の違う世界からやってきた人間だと
言っていたが、当時の彼女はそれを半信半疑で聞いていた。
しかし、その知識の膨大な量たるや、辞典よりも知識が豊富だと
リッチに言わしめる程の知識量を誇るエレノアでさえ圧巻するほど
のものであり、彼は何一つ知らないことがないようにも思えた。
男「エレノアさん、少し良いですか?」
エレノア「はい?」
当時の彼女はまだ20代に入ってそこそこだったので、自分の力を
過信する嫌いもあった。
そんな彼女の傲慢な心が、あの悲劇を生みだしたのだ。
男「ある魔術の実験をしたいんですけど、あなたの助力が必要なんですよ・・・」
エレノア「私の?」
男「そう。あなたのような、優秀な人のアニマと知識が・・・」
そして、彼の行った実験。
それは、まさしく禁断のものであった。
神の領域を侵害するような・・・
それは、あるクヴェルの創造であった。
そう、まさしく、悪魔のクヴェル。
男「魂の存在を、あなたは信じますか?」
エレノア「アニマとどう違うの?」
男「アニマは万物を構成するものに過ぎない。魂というのは、それを越えた
何かであると僕は思うのですよ」
エレノア「ふーん。私にはよくわからないわ。」
男「ともかく、これから講義をするときはこれを持って教壇に立って下さい。」
そう言って男が彼女に手渡したのは、手のひら大の何かの容器だった。
エレノア「これは?」
男「ただの実験材料ですよ。気にしないで下さい」
しかし、この物体の恐ろしさを彼女が関知するのは、遅すぎたのだった・・・
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