時空のSaGa


エレノア「・・・」
時空から転移した先は、彼女が全く見たことのない様な場所だった。
見たことがないと言うより・・・聞いたこともないような世界。
そこには彼女知っているアニマの感覚が殆どない。
漂っているのは、全く別の、アニマならぬアニマの匂い・・・
目の前にそびえているのは建物であるということは知れる。
だが、その形状は見たことがない。城と言うには作りが乱暴だ。
だが家と言うにはあまりに大きすぎた。
そもそも、この建物そのものから何かのアニマが感じられない。
入り口が何処にも見あたらないし・・・
エレノアが建物に一歩近づく。
すると。
何かがほえるような音と共に建物の一部が口を開けた。
エレノアは後ずさりした・・・すると、口はまた静かに閉まっていく。
何かしら、と訝しがったが、この建物からは生命のアニマが感じられない
のは、容易に知れてることだ。
ならば、一体・・・
エレノアは覚悟を決めた。
エレノア「・・・ええい!!」
いささか意気込みすぎてエレノアは口の部分に近づく。
口はまたけたたましい音と共に開き、エレノアを飲み込もうとする。
エレノア「・・・ままよ!!」
思い切って中に飛び込むと・・・
・・・
そこには床があった。
よくよく見回してみると、中には無数の建物が更に存在していた。
人もいる。
エレノア「・・・どうなっているの???」
しかも、道行く人々はエレノアの知っているような服を身にまとっているものは
誰一人としていない。
何かよくわからない、へんてこな服とも言えないものを着て、平然と歩いて
いる。
エレノアは自らの常識と目を疑った。
ぽーっと立ちつくしていると、誰かがこっちに向かって走ってくる。
???「不審者はここか!?」
数人でエレノアを取り囲み、訳の分からないことを連呼している。
???「こいつです!!」
???「よしっ!取り押さえろ!!」
抵抗する間もなく、エレノアはあっという間にお縄となった。
エレノア「ちょ、ちょっと・・・私が何したって言うのよ!?」
???「黙れ!!貴様こそ何者だ!?そんな風貌の人間など見たことがない!!
    さては・・・人間に模した悪魔か!?」
エレノア「待ってよ・・・どうして私が悪魔になんなきゃいけないのよ!!」
???「悪魔はみなそう言う!!」
これはたまらない、エレノアは即座に理解した。
ここは、自分の知ってる文明とは違う・・・過去でも、未来でもない、
パラレルワールド・・・
しかし、そんなことはどうでも良い。
今この危機を乗り越えなくては、自分は確実に・・・
エレノア「人のこと勝手に捕まえて置いて悪魔はないでしょう!?
     礼儀ってものを知らないの!?」
???「悪魔に対して礼儀など必要ない!!」
エレノア「あたしは人間だってば!!」
???「人間にそんな金色の髪をして、翡翠色の瞳をしたものはいない!!」
エレノア「だからぁ、あたしはそれでも人間だって!!」
強引に手を払おうとしても、以外にこの頑固者達は力が強く、振り払えない。
術を使おうにも、使ったら使ったで、悪魔だという証明をするかも知れない・・・
非常に、エレノアは困った。
どうしようもないから困ったのではない。逃げ出すことは出来るが、
このまま事の成り行きを見てから抜け出すか。
それとも今すぐ抜け出すか。
それを迷った。
ただ、抜け出したあとは保証できないが・・・
とりあえず、エレノアは黙って付いていくことにした。

何やら一段と大きな建物に入っていくと、そこは同じ様な作りの同じ様な
回廊が続き、目が回りそうになった。
おまけに、エレノアの頭の片隅にも無いような材質で出来ている。
鉄でも、金でも、鋼でもない・・・
???「とりあえず、ここにいろ!!」
どんっ、と邪険に入れられたのは牢屋だった。
これは一目でわかった。
ここばかりは全く同じ作りをしていたので。いささか豪華ではあったが。
エレノアが中にはいると、ドアは音もなく閉まり、それきり開かなくなった。
エレノア「さて・・・どうしようか・・・」
寝ようとも思ったが、その前に自分に起こってきた事象をとりあえず
整理を付けてみることにした。
エレノア「ええと・・・顛末はまずリッチと一緒にあの術の実験を
     したことね・・・
     それが時空転移の術で、まずは私たちは過去に行った。
     そこでリッチの父親と母親にあって、また転移。
     その時転移した理由は、多分あのクヴェルにあったのでしょうね。
     推測からして・・・アレは、きっとイメージを増幅させる
     クヴェルだと思う。あの黒服の話じゃ、私には転移の力が
     身に付いてると言うことになる。それで、あのクヴェルでその力
     が増幅されて・・・
     リッチはきっと私と同じ所にはいないでしょうね。
     彼は多分未来にでも・・・
     で、私は黒服にあった。
     彼は一体何者だったのかしら。明らかに、彼は私を呼んでいた。
     尋常ならざる、神のごとき力の持ち主。
     それとも、神自身?それなら・・・」
そこまで考えたところで、エレノアの意識はだんだんと朦朧としてきた。
眠気が来たらしい。疲れもたまっていることだろう。
素直に、エレノアはその眠気に自分を預けてみた。
夢は、見なかった。

目を覚まさせられたのは、誰かの訪問だった。
???「お目覚めかい?」
さほどエレノアは目の前に突然男が現れても吃驚しなかった。
リッチじゃしょっちゅうだったからだ。
エレノア「何のよう?」
???「さっきは失礼した。俺の名はディオール。思い当たることがあって
    ちょっと来たんだ。」
エレノア「あなたは?私は囚われているのよ?会って良いものかしら。」
ディオ「俺はここの長官だからな。俺の指一本であいつらは動く。」
エレノア「へぇ。大物なんだ。」
ディオ「そういうことさ。それより・・・君はここが何処だか知ってるか?」
エレノア「知らないわ。多分、私の住む世界とは違う世界・・・」
ディオ「そうだろうな。ネメシスがそう言ってた。」
エレノア「?」
ディオ「わかんねぇだろうから、こっちへ来な。」
そういってディオールは部屋のドアを開けた。
エレノア「いいの?」
ディオ「何がだ?」
エレノア「私を出した事よ。」
ディオ「何か不都合でもあるのか?」
このディオールという男・・・ただ者じゃないな、エレノアはそう見抜いた。
ディオ「っとまぁ、ついたぜ。ここさ。」
ディオールは壁の何やらスイッチみたいなものを軽快なテンポで押すと、
プシュー、と空気の抜けたような音がして壁が開いた。
エレノア「・・・何なの、これ・・・」
ディオ「・・・あとで説明するさ。」
部屋の中は、口では形容できないほどだった。
強いて言うなら、凄い?いや、そんなレベルじゃない。
エレノアの常識を覆すような光景が、そこにはあった。
エレノア「何なの、これ・・・」
ディオ「君は機械というものを知らないようだな・・・まあいい。こっちだ。」
ディオールが案内したところは噸でもなかった。
アニマ無しで人々は火を使い、空を飛び、そして人じゃないものが作業
している。
アニマなどそこには存在しなかったが・・・それとは違う「何か」が
働いているのをエレノアは衝撃的に感じた。
エレノア「凄い・・・」
見たことのない光景は何時しかエレノアの心を躍らせていた。
かつて無い感動を味わっていた。それは、未知のことに対する探求。
その思いは人が人である限り、感じること。それは、人のサガ。
クェーサー「ディオール!!連れてきたのか!?」
向こうからディオールを呼ぶ声がする。
ディオ「ああ!今行く!!」
向こうにいたのは学者のような格好をした少し歳の行った男に、若くて
ハンサムではあるが何処かクールな風貌の男、そして当に「清楚」な
印象を受ける女の子・・・
ディオ「紹介しよう。俺の仲間のDr.クェーサーにボラージュ、そして
    さっきも一言話に出たネメシスだ。」
ボラージュ「よろしく。」
ネメシス「初めまして。よろしくお願いします。」
クェーサー「ほらほら、挨拶などあとにせんかい!!
      ともかくこっちでお茶でも飲みなされ。」
思ったよりもエレノアはこの人達に好印象を抱いた。
特にこのクェーサー博士。なかなか通好みであると思えた。
きっとこのおじいさんとは話が合うだろう。密かにエレノアはそう思った。

お茶を勧められてエレノアはとりあえず自分の身の上のことを洗いざらい話した。
が、その場の4人は誰もその話を疑わなかった。
どうしてか、と尋ねてみると、曰く、
「ネメシスが予言してたんだ。俺達の知らない何かが、今起ころうと
 している。その先駆けになるのは他の次元より来た女性がカギを握る・・・
 ってな。それはきっとあんたのことだろうぜ」
以外に迷信深いらしい。エレノアは少しおかしくなった。
とりあえず彼女の方の話が一段落すると、今度はディオール達の話す
番だった。
そして、エレノアは今までの自分の了見の狭さを知った。
機械というもの。そして、様々な工芸的手法、物理的法則。
多少はエレノアにも通じる話はあったが、殆どどれもが初耳の話だった。
しかも、よく考えると不可能はない話ばかりであった。
彼女たちは今まで、アニマというものに頼りすぎていた。
確かに、アニマは全てを司っている。しかし、少ないアニマで大きな作業を
することは、今まで無かったことだ。
機械というものは、それを実現させてくれている。
自分たちの文明は、如何に遅れていただろうか!!
思うと、鋼の13世、ギュスターヴがこの機械というこの存在を知ることが
あったなら、もっと違う世の中になっていたかも知れない・・・
そう考えると、エレノアは寒気がした。
しかし、ややあって、エレノアは自分たちも彼らには出来ないことがあること
を知った。
彼らはアニマを自分たちのように上手く扱うことは出来ないのだ。
機械に頼ってしまい、それ自身の本当の使い道を忘れる。
枝葉末節と言うのだろう。
彼女たちがごく当たり前にアニマを使って術を使うことは、この文明人
達にとっては非常に難しいことだったのだ。
その中でも抜きん出ていると言われているネメシスとボラージュでさえ、
エレノアはともかく、リッチにも遠く及ばないとエレノアは思った。
彼らが使える最高の魔法を、エレノアは難なく使いこなして見せた。
しかし、その魔法もエレノアの考えてるのとは別の概念で生み出された
別のアニマの使い方であり、それもまたおもしろいと考えた。
研究材料が、増えたと言うことだ。
エレノア「ほーーー。ここまで世界が違うと理論も文明も違うのね。」
クェーサー「いやいや全く。儂にもわからないことがあって吃驚じゃわい!!」
エレノア「それを言うなら私もですよ。これで当分研究には飽きが来ません
     ね。」
クェーサー「いやいや全くその通り!!」
その日、エレノアはクェーサー博士と夜を明かして語り合っていたと言う・・・

クェーサー博士の話中に出てきた、「ステスロス」。
それは古代の文明が生み出した最高傑作だと言うが・・・
人類にはまだ解き明かされていないことが多すぎた。
古代というのが、どんな時代であったかは、知る者は居ない。
だが、その翼が再び空を、空間を、そして時を超える日は、近づいていた。
そしてその時は、世界の終わりが近づくことであると言うことを
知るものは、皆無だった・・・
09/05/1999