湖のSaGa


エレン=カーソンは何時しか迷い込んでいた。
記憶によると、砂漠を遙か東の方へ進んでいたら、いつの間にか大河に出て、
また砂漠に出たら・・・今度はサバンナ。
エレン「ここどこよ・・・」
こうなったのは、偏にエレンの不注意他ならない。
神王教団の塔へちょっと行かなくてはいけないときに道を間違えたのだ。
エレンは実のところ、多少方向音痴なのだ。
エレン「ああ、これならカタリナさんと一緒に行けばよかったのになぁ・・・」
それは数ヶ月前の話だったが、ちょっとした事件で彼女とカタリナは
冒険したのだ。その時に、カタリナは「ピドナに行くけど、あなたもくる?」
と言ったのだが、エレンは「いいわ。遠慮することにするよ。」
とは言ったのは、カタリナの旅は本来一人旅のはず。
エレンとこれから先ずっと一緒に行動するのはいささか・・・
と言った気持ちからだったが・・・
エレン「ここ、何処よぉ〜〜〜!?」
誰も踏み入れたことのない東の地。エレンはかつて感じたことのない
恐怖の鱗片を味わい始めていた。
エレン「水・・・みずは・・・」
そろそろのども渇いてきた。お腹もすいている。
幸いにしてモンスターはいなかったが、エレンはそろそろ限界に近づいていた。
そんな極限状態でこそ、人間というものは真の力を発揮するのだ。
エレン「・・・水の流れる音・・・?」
少し西の方から微かに水が流れる音が耳に入る。
普通では聞こえるものではなかったが、このときのエレンは普通の状態では
なかった。
エレン「水!?あああ!!!」
全てを忘れてエレンは走った。
全力を振り絞るとかそういうレベルの事じゃない。
エレン「あそこ!?」
あと500メートル。
300,200,100・・・
エレン「あああああ!!水よ、みずぅ〜〜〜〜〜〜!!」
半ば狂乱して水へとエレンは飛び込もうとした・・・が。
???「汚い手で触らないで!!」
湖の中から声がした。
とは言っても、湖の水は透明で、濁りなど無い。
それなのに・・・声の主が見えない。
エレン「・・・?気のせい?」
気のせいだと思って再び湖に手を差し入れようとする。
すると、また。
???「触らないでって言ってるでしょ!!」
今度は語気が少し強めになった。
エレン「???誰???」
???「ここから立ち去って!!」
エレン「はぁ・・・?もう死にそうなのに・・・水の一杯くらいいいじゃん・・・」
???「水の一杯ですか・・・どうやら、貴女は信頼できる人のようですね。
    いいでしょう。」
と、声が聞こえると、湖が少し歪んだと思うと、人魚のような生き物が
水面から姿を現した。
ネレイド「私たちは、ネレイド。
     このサロマ湖を守護するものです。」
エレン「???ネレイド??」
エレンの頭の中は整理が付かない。
ネレイド「わかっていらっしゃらないようですね・・・
     いいでしょう。とりあえず水をあげましょう。
     この水はただの水ではなく、たった一杯で空腹も全て満たすことが出来ます。
     それ故に、誰にも知られたくなかったのですが・・・」
エレン「あー・・・っと・・・つまり、秘密の花園みたいなもの?」
ネレイド「・・・少し違いますが・・・そう思って結構です。
     それはそうと、貴女を見込んで、お願いしてもよろしいでしょうか?」
エレン「?何?」
ネレイド「昔ある方から『月光の櫛』なるものをいただいたのですが・・・
     それが、ふとした瞬間に盗まれてしまいまして・・・
     取り戻していただければ、何でもいたします。
     お願いできますか?」
エレン「勿論よ!!」
エレンは即答した。
エレン「命の恩人だしね、あたしも暇だったから・・・
    月光の櫛?わかったわ、探してきてあげる!!」
ネレイド「あ、ありがとうございます!!」
エレン「困ったときはお互い様よ。
    それより、手がかりは何か無いの?」
ネレイドはエレンの質問に貧窮した。
ネレイド「すみません・・・」
エレン「いや、いいの。どうせ当てのない旅だし。
    じゃあ、行ってくるわね。」
ネレイド「お待ち下さい。これを・・・」
ネレイドがエレンに手渡したものは櫛だった。
ただし、その色は無く、無色ではあったが透明ではなかった。
ネレイド「白の櫛です。これがあれば、一度だけここへ来ることが出来ます。
     しかし、一度しか使えません。使いどころはよく考えて下さい。」
エレン「ん、ありがと。助かるわ。」
ネレイド「では、御武運を・・・」
エレン「ええ・・・」
一言だけ交わして、エレンは湖を去った。
その後、ネレイドは、祈るようにして呟いた。
ネレイド「陛下・・・すみませんでした・・・」
08/21/1999