狭間のSaGa


エレノア「・・・ここは・・・?光?」
黒服の男「気が付きましたか・・・エレノアさん。」
エレノア「ここは、宇宙?それとも・・・」
黒服の男「さあ・・・私も存じません。しかし、ここにいるのはどうやら
     私と貴女だけのようですね。」
エレノアと対峙する、黒い服を着た、怪しげな男。サングラスが更に
怪しさを強調している。
しかし、この男からは、妙なオーラを感じるのだ。彼女たちに言わせれば、
不思議な、形容しがたい「アニマ」が・・・
エレノア「あなた・・・何者なの?」
黒服の男「何者?そんなことはどうだって良いのです。私が何者だろうと。
     ただ、ここで貴女と私がお会いしたのは運命、とでも言いますか?」
エレノア「運命って言葉で物事は片づけられないわ。」
黒服の男「ほう・・・学者系の人だけあって、現実的な見方をする・・・
     まあ、それもいいでしょう。」
エレノアは宇宙を実際に見たわけではなかったが、多分今自分がいる
ところこそが宇宙と言うところだ、と思う。
真っ暗で、寒い。しかし、何億もの光が己の身を暖めてくれる。
光は飛び交う。
エレノアは、少しこの空間に吸い込まれそうな錯覚を覚えた。
エレノア「現実的でも、何でも良いじゃないの。
     それより、あなたの手に持ってるクヴェル・・・」
黒服の男「ああ、よく気が付きましたね。あなた達の言葉ではこれは
     クヴェルと言うんでしたよね。
     これは、貴女には危険なものです。触ってはいけません。」
エレノア「・・・?どういうことなの?」
黒服の男「いずれわかるでしょう・・・ただ、このクヴェルは生来人の
     手に渡ってはいけないもの。私は大丈夫ですが、普通の人が
     このクヴェルに触れると・・・精神を食われ、自我が崩壊
     してしまうでしょうね。恐ろしい話だと思いません?」
淡々と話す男の様子に、多少なりともエレノアは戦慄を覚えた。
気のせいか、むしろ楽しそうにも感じたのは・・・
背中に、冷たい汗が流れるのを感じた。
エレノア「・・・確かに恐ろしい話ね・・・ではあなたは、自分が普通の人間では
     ない、と?」
黒服の男「さあ?それは貴女のご想像に任せます。」
そこで黒服の男は一息置いた。
黒服の男「では、本題に入ります。
     貴女は、人類の中で初めて、『時』というものに直に触れた者
     です。術を使って細かい流れを調節するだけの芸当ではない、
     正真正銘の時間軸移動・・・
     機械で時間移動を達成した者は存在しましたが、人間一人の、
     単体生物の中では貴女が始めてのことです。
     これは、貴女の並はずれた才覚。神にも近い力を持っていると
     いう、証拠です。それ故に・・・貴女は、大きな運命に立ち
     向かわなければいけません。」
エレノア「ちょっと待ってよ。どうしてあたしが時間移動したことを知って
     いるのよ?それに、運命なんて信じないと・・・」
黒服の男「では、貴女のその力が大きな、もっと大きな力を呼び寄せる、 
     とでも言いましょうか?
     世界は飢えています。変革を求めています。
     それをやるのは、貴女かも知れない。そういうことです。」
いかにエレノアといえど、すぐ様にはこの話の内容理解が出来なかった。
いくら何でも、大袈裟すぎる・・・
エレノア「つまり、あたしが時間移動やったおかげで世界が変わること
     になる、とでも言いたいの・・・?」
黒服の男「流石ですね。察しが早い。
     間もなく、貴女は時間も、場所も、そして貴女の常識も越えた
     世界に足を踏み入れるでしょう。
     そして、その運命の渦の中心・・・それが、貴女です。」
エレノア「な・・・!そんなこと!?」
黒服の男「あるわけがない、とでも言いたそうですね。しかし、実際に
     体験するのは、もう間もない。
     貴女は、これまでの自分の知識がいかに矮小であるかを知ります。
     そして、自分の運命、と言うものを感じざるを得ない・・・」
いよいよ、エレノアはこの男のアニマに疑問を、そして恐怖を感じてきた。
何故其処まで知っているのだろうか。
そして、何故知ってるのか。
いや、そもそもこの男の存在自体が・・・
エレノア「もう一度、聞くわ。あなた・・・何者なの?」
黒服の男「私からも、一言申し上げましょう。
     よけいな詮索は・・・身を滅ぼしますよ?」
サングラス越しとはいえ・・・エレノアは、確かに男の瞳に隠れたものを
感じていた。それは、殺気とも、侮蔑とも、そのどれとも全く違う・・・
言うならば、感情を超えた感情を感じる恐怖とでも言うのか。
エレノアの体は最早、戦慄すら覚えられないほどに麻痺していた。
動いているのは、心臓と、口。
エレノア「あ・・・」
突然に、エレノアは黒服の中に何かを超えた絶対的な者の存在を感じた。
抗いがたい、魅力的な、だが同時に威圧的な。
エレノアは、少しこの男の存在を垣間見た気がした。
黒服の男「・・・まあ、良いでしょう。
     これから貴女は試練を受けることになるでしょう。しかし、そこで 
     出会う新たな仲間、そこで芽生える友情や信頼、絆を大切にして、
     乗り切ってくれることを私は願っています。
     おしゃべりはここまでですね。では、また逢うときまで・・・」
宇宙ははじけた。
視界の中の黒服の男の姿は歪み、意識が朦朧とする。
それでも、失いつつある意識の中で、エレノアは思っていた。
エレノア(運命・・・新しい、世界・・・あたし、が・・・)
そうして訪れる、ブラック・アウト・・・
08/19/1999