船出のSaGa


家の中には男が一人、女が一人、あとはただの取り巻きのような者が居た。
どうやらこのごろつきを従えているのは女の方らしい。
シャール「貴様ら・・・こんな事をしても何にもならんぞ・・・」
女「あんたなんてどうでもいいのさ。ミューズは何処って何回聞いたと思ってるの?
  早く言わないとあんたが死んじゃうよ?」
男の、シャールの体は既にぼろぼろで満身創痍、最早立ってるのが辛そうにも見えた。
アセルスは会話の内容から見て、さっきの女、ミューズが何かに絡んでいると
察した。また、どっちが悪者、ということも。
アセルス「その辺にしておいたら?」
唐突にアセルスは会話の中に入った。
シャール「誰だ、あんたは・・・」
アセルス「さあ?でも、貴方は悪い方じゃないわね。」
女「何よ、このガキは?」
アセルス「ガキ、ねぇ・・・人数従えて威張ってるおばさんにそんなこと言われたくは
     無いと思うけど」
別に挑発しているわけじゃない。これがアセルスの地なのだ。
女「!ガキが・・・なめたこと言ってるんじゃないよ!!」
女が何やら取り巻きに合図する。
すると取り巻きたちはじわじわとアセルスの周りを狭く囲う。
その動きは確かに少々の訓練は受けてはいたが、アセルスから見ればただの
遊びにしか見えなかった。
女「行け!!」
そう女が言った瞬間、外にいた男のうちの一人が家の中に入ってきた。
外にいた男「やめろ!!姉さん、其奴は化け物だ!!」
言ったときにはもう遅かった。
アセルスの真紅の剣は確実に男たちの体を切り裂いていた。
多少加減はしたものの、致命傷に近い傷だ。しかし殺してはいない。
アセルス「こんなのと私を同じにしてほしくないわ。」
その様子を見た女は拍子抜けしたのか、暫く口を開けたまま立っていた。
男「姉さん!!」
さっきの男の一言で女は気を取り直し、
女「あ・・・こ、今回はこのくらいにしておくよ!!」
月並みな台詞と共に慌ただしく逃げ去っていった。
シャール「・・・あんた、何者だ?」
アセルス「カタリナに聞けばわかるわ。」
シャール「カタリナ?」
そこに、そのカタリナとミューズがやってきた。
カタリナ「・・・どういうことなの?」
シャール「変な連中が来て、ミューズ様をよこせと・・・
     そしたら、この女が来て、奴らを一蹴してしまったんだ。
     一体、こいつは何者なんだ?」
カタリナ「あなたから私に聞き返しても・・・」
その時、アセルスは、何かに気が付いた。
この匂いは・・・
アセルス「早く!!この家から出ろ!!」
何かの焦げるような匂い・・・これは、火薬だ。
間に合わない、アセルスはそう思って、三人を外に放りだした。
三人が外に投げ出された瞬間、アセルスがまだ中にいる家は、爆炎に包まれた。
カタリナ「!アセルスは!?」
シャール「俺たちを外に出すために・・・」
最早、この爆発と炎の中じゃ生きていられない、そう三人は思っていた。
だが。
ミューズ「人影が・・・」
炎の中に、人影があった。
アセルス「・・・私はこのくらいじゃ死なない。それがいいことなのか、
     それとも・・・
     これが私。人間として生きられなくなった私。」
炎の中から聞こえてくる声は、明らかにアセルスのものであった。
しかし、その場にいる誰もがそれを信じられずにいた。
この中で、生きていられるわけがない。
シャール「あんた・・・何もんだ?」
ミューズ「・・・そんなことよりも、早く炎の中から出てきて下さい。
     大丈夫なんですか・・・?」
アセルス「ああ。大丈夫だけど・・・服が焼けちゃって、裸で出られないのよ」

アセルス「何かこういう服着るの久しぶりだなぁー。」
カタリナが服を買ってくるまでアセルスはずっと炎の中にいた。
常識では考えられないことだったが、既に彼らは常識感覚が麻痺し始めていた。
シャール「・・・」
ミューズ「お気に召してくれました?」
最も、ミューズは元々ずれている面もあったが。
カタリナ「しかし、間近で見ると結構怖いかもね。」
シャール「そういう問題じゃないと思うが。」
アセルス「まあ良いじゃない。これで私の存在を知ったでしょう?」
シャール「・・・」
ミューズ「ところで、これから何処かに行くんですか?もう家はないですし・・・」
会話の論点がずれてはいたが、ミューズの言うことも一理あった。
そうなのだ。家は炎上してしまってもうミューズやカタリナの住むところが
無くなっていたのだ。
シャール「ミューズ様の言うことも一理あるな・・・」
アセルス「ここにいてもまた狙われると思うし。いっそ、遠出でもしたら?」
カタリナ「でも、ミューズ様の体は・・・」
ミューズ「大丈夫ですよ。私も少し、冒険というものをしたいですし。」
シャール「ミューズ様!?」
アセルス「決まりね。じゃあ、何処に行くの?」
シャール「いかん!!ミューズ様の体を・・・」
ミューズ「私は、寒いところが良いですわ。」
アセルス「よし!じゃあ、そこにいこう!!」
シャール「ミュ、ミューズ様!?寒いところなどと・・・」
カタリナ「乗りかかった船じゃない。諦めたら?シャール。」
シャールが止めるまもなくミューズとアセルスは船着き所まで走り出していた。
シャール「・・・頭が・・・」
そうは言いつつも、シャールも半ば諦めていた。
ともあれ、新たな船出が、始まる。

08/18/1999